昔、奈良の橿原(かしはら)の地黄(じおう)という所に、惣五郎という爺さんが住んでいました。爺さんの田んぼは三反分もの広さがあり、三段御作と呼んでいました。
ようやく稲を植えおえた日の事、野井戸で手を洗っていると、一匹の子狐がおぼれ死んでいました。可哀そうに思った爺さんは、井戸から引き上げて自分の畑の隅に埋めてあげました。その夜、爺さんが寝ていると「三段御作みな引いた」と、誰やらの声がしました。
その時はあまり気にせしませんでしたが、翌朝、田んぼを見ると、稲がみな引っこ抜かれていました。村人たちには心当たりもなく、爺さんも犯人が分からず、ふと昨日埋めた子狐のところへ行ってみました。すると、墓は掘りかえされて子狐はいなくなっていました。
きっと狐の親が勘違いして稲を引っこ抜いたんだろう、と思った爺さんは、狐の居そうな森へ行き「あの子狐はおぼれ死んでいたのをワシが埋めたんだー」と、大声で言って回りました。するとその夜、狐たちが爺さんの田んぼにやってきて、伊勢音頭を歌いながら抜いた稲を拾いながら、田植えを始めました。
すっかり稲を元通りに植え戻した狐は、「爺さん、お田植え引いてすまなかった。三段御作また植えといた」と、謝りました。この年の三段御作の稲からは、いつもの年の三倍の米がとれたという事です。
(紅子 2012-1-19 23:10)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松本俊吉(未来社刊)より |
出典詳細 | 奈良の民話(日本の民話75),松本俊吉,未来社,1980年08月20日,原題「三段御作」,採録地「橿原市」,話者「崎山卯左衛門」 |
場所について | 奈良の橿原の地黄(地図は適当) |
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