昔、越後の国の鯨波(くじらなみ)に玉屋の徳兵衛(とくべえ)という男がいた。徳兵衛は大変な働き者で、朝から晩まで休みなく20年働き続け、大変な金持ち長者になった。
きれいで若い嫁さんをもらい、玉のような男の子にも恵まれ、何一つ不足のない暮らしを送っていたが、財産が増えれば増えるほど、泥棒に入られやしないかと心配で夜も眠れなくなった。ふと、徳兵衛は考えた。「蔵の金銀を裏庭の椿の根元に埋めて隠してしまおう」
さっそく金銀を埋めた徳兵衛は、すっかり安心して湯治に出かけた。温泉につかっていると、どこからか歌が聞こえてきた。「越後鯨波、玉屋のツバキ、枝は白銀、葉は黄金~」それを聞いた徳兵衛は大慌てで家に帰り、椿を確認すると、なんと椿は歌詞の通りに金銀で輝いていた。
隠していた金銀を椿に吸い取られたと思った徳兵衛は、そのまま寝込んでしまった。徳兵衛は、嫁さんに椿の根元に埋めた金銀の事を話し、自分が死んだら掘ってみよ、と言い残し息を引き取った。嫁さんは徳兵衛の言いつけどおり、椿の根元を掘ってみたが何も見つからなかった。
現在では、玉屋のあたりは海の底となり、どういうわけだかその辺りの波だけはキラキラと金銀のように輝いているそうな。
(紅子 2011-8-27 8:38)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松谷みよ子(講談社刊)より |
出典詳細 | 日本の伝説5(松谷みよ子のむかしむかし10),松谷みよ子,講談社,1973年11月20日,原題「玉屋のつばき」,採録地「新潟県」 |
備考 | 採録地は転載された本(日本の伝説上巻,松谷みよ子,講談社,1975年5月15日)で確認 |
場所について | 鯨波(地図は適当) |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第25巻-第125話(発刊日:1978年10月30日) |
サラ文庫の絵本より | このおはなしは、日本の昔ばなしのなかに、数多く見うけられる「長者物語」のひとつです。そのほとんどが、ハッピーエンドで終わるのに、この物語では、汗水ながしてためこんだ金銀財宝を、すっかりツバキにすいとられてしまうという、ふしぎな結末になっています。むろん、実際にはそんなことなどあるはずがありませんが、これはつまり、欲に目がくらんだ「金の亡者」をいましめた説教ばなしといえるでしょう。ところで、このおはなしの舞台になっている鯨波という町は、いまも新潟県の日本海に面したところにあります。その地名のいわれは、昔このあたりでも、鯨がたくさんとれたことからついたものだといわれています。(かっこ枠なし) |
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