岡山の伝説(角川書店,1978年4年10日)に、同タイトル名のお話があり「このお話かもしれない」ということであらすじを書いてみます。
むかし、久米の吉岡村に徳善というご隠居が住んでいた。家を出て坂道を下ると吉井川があり、そこが深い淵になっていたので、徳善爺は初夏ともなると釣りをして過ごした。ただ、糸を垂れてるだけで、浄瑠璃をうなってばかりいた。
ある日、いい気持ちで釣り糸を垂れていると、「おーい、ご隠居さん、でっかいのが引いてるぞぉー」という声にハッとして、釣竿を握りしめた。糸はギューンと張って、淵の中に引きずり込もうとする。「おーい、誰か」と助けを求め、声をかけた若い衆が加勢に入った。両足を踏ん張り、引きつ戻りつ、逃げ回る怪物との力比べとなった。やがて、力が尽きたか、魚を手元に引き寄せることができた。釣竿を持ち上げると五尺もある大ナマズで、暴れまわるのを抑え、ようやくビクに納めることができた。
ビクの中の大ナマズは大人しかったが、五尺もあると担ぐのも一苦労。しばらく歩かぬうちに、すぐ木の根っこに腰を下ろした。すると、どこからか、か細いが澄んだ歌声が聞こえてくる。立ち上がって辺りを見回したが、周りには誰もいず、「不思議なことじゃ」と思って、また耳を澄まして、歌声に聞き入っていると、
千年万年 あの淵に 住み慣れし このわしを
余計なことに 胴欲な 釣っていくとは…
と、聞こえる。徳善爺は度肝を抜かれ、両膝を付いてしまった。恐る恐るビクを覗くと、歌はピタリと止んだ。「ただのナマズじゃないと思ったが、淵の主じゃったか」徳善爺は冷や汗を垂らし、淵のそばまで駆け降りると、大ナマズを放した。大ナマズは淵の中へと滑り込み、後には大きな水紋が残った。「浄瑠璃をうなるんじゃあ、なぁ…」
その翌日から徳善爺はフッツリと釣りをやめてしまった。その代わり、昼と夜となく、浄瑠璃をうなる声が聞こえ、急に上手くなったと評判が立った。徳善爺の話では、耳を澄ますと、ビクの中から聞こえた澄んだ声が、浄瑠璃を教えてくれるんだとか。村人は大ナマズが逃がしてくれたお礼に教えてくれるんじゃろうと噂し、徳善爺は名人と言われるまでになった。それからというもの、大ナマズを釣った淵は徳善淵と呼ばれるようになったとさ。
(投稿者: araya 投稿日時 2012年1月20日 6:37 )
ナレーション | 未見のため不明 |
出典 | クレジット不明 |
出典詳細 | 岡山の伝説(水藤春夫,角川書店)かもしれない、採録地は美作の国久米の吉岡村とのこと。 |
場所について | 徳善淵は柵原総合支所から吉井川を数百メートル程下った所(地図は適当) |
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