昔ある村のはずれに古い空き家があった。あまりに古くて気味が悪かったが、毎晩村の怖いもの知らずの子供たちが集まってきて、この空き家で夜遅くまで遊んでいた。
ある晩のこと、突然屋根裏からどすんという大きな音が聞こえた。子供たちがおそるおそる屋根裏へ上っていくと、そこには大きな餅が落ちていた。子供たちはその餅を焼いて食った。翌日も、昨夜と同じ時間にもっと大きくてもっとおいしい餅が降ってきた。
またその翌日、今まで聞いたこともないような大きな音がして、屋根裏に上ってみると、いつもと様子が違った。妙な感触で、重いのである。やがてそのかたまりから白髪が生えてきて、一人の婆さんになった。
婆さんは「わしの餅を食ったのならば、銭をよこせ。でないとおまえらを食っちまうぞ」と、婆さんは子供たちに言った。子供たちは「銭などない。餅は天からの贈り物だと思っていた」と言って、全員で空き家から逃げ出した。しかしどうやっても、婆さんから逃げることができず、とうとう婆さんに追いつかれ、子供たちは一斉に婆さんに謝った。
しかし、茂助という子供だけは謝らず逃げ回った。茂助の行く手には大きな川が流れていたので、川岸の大きな木に登ることにした。しかし婆さんもどんどん木に登ってきて、とうとう茂助を木のてっぺんまで追いやってしまった。
茂助は木から川の中へ落ち、おぼれながら「婆さん、おれがわるかった。許してくれ」と謝った。婆さんは「強情な小僧め、やっと謝ったか」と笑った。
他の子供たちが茂助のことを心配して川岸までやってくると、茂助が大きな餅の上に乗っかって、川の中から浮かび上がってきた。そこにはもう婆さんの姿もなかった。その後子供たちは二度と、村はずれの空き家に近づくことはなかった。あの婆さんはどこへ行ったのか。きっと今日もどこかで餅を食っているに違いない。
(投稿者: カケス 投稿日時 2012-11-14 22:36)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 稲田浩二「美濃の昔話」より |
出典詳細 | 美濃の昔話(日本の昔話 第16巻),稲田浩二,日本放送出版協会,1977年04月20日,原題「しらが平の婆餅」 |
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