昔、福井県の下荒井にお爺さんとお婆さんが住んでいた。
ある日のこと。畑仕事に使う肥桶が使えなくなったので、お爺さんは大野の町へ出かけ、新しい肥桶を買った。その帰り道、お爺さんは仏具屋の前に来た時、急に立ち止まった。
店に吊るしてあった如来様の巻物の絵をお爺さんの目を捉えたのだ。お爺さんは如来様の巻物の絵が欲しくなり、有り金を全部叩いて買い求めたのは良いが、どう持ち帰ればよいか困ってしまった。
お爺さんは、新しい肥桶に入れて持ち帰るのだから罰は当たるまいと思い、肥桶に入れて持ち帰った。その途中、村の入口にある大岩のところで休憩することにしたが、しばらくするとお爺さんは転寝をしてしまい目覚めた時には夕方になっていた。
家に帰り、待っていたお婆さんに、如来様の絵を買ってきたと言い新しい肥桶から出したが、肥桶に入れて持ち帰ったと知って、お婆さんは如来様に申し訳ない気持ちになった。
お爺さんは巻物を広げたが、不思議なこと掛け軸には如来様が描かれていない、ただの紙でしかなかった。
だがその夜、お爺さんは不思議な夢を見た。あの巻物に描かれた如来様が、休憩した大岩の前に立っている夢だった。夢から覚めたお爺さんは、これは何かあると思い、お婆さんを起こし、急いであの大岩に向かった。
そこでふたりが見たのは、巻物に描かれた如来様が大岩にぴったりと写っていたのだった。お婆さんは「新しいとはいえ肥桶に巻物を入れたから如来様は嫌がり、大岩に逃げたのだろう」と考えた。お爺さんは肥桶に入れことを如来様に謝り、お婆さんと共に手を合わせた。
そののちふたりは月に何度か大岩の如来様に拝みにやって来た。事の次第を聞いた村人たちは、大岩の如来様を『岩如来』と呼んで崇め、今でも岩如来の前には花と供物が絶えないそうだ。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-9-16 23:45)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 福井の伝説(日本標準刊)より |
場所について | 勝山市遅羽町下荒井の岩如来(たごけの地蔵) |
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