昔、鹿児島の末吉に黒原勘兵衛というたいそう優れた武芸者がいた。勘兵衛は背丈が三尺(約1メートル)余りという小男で腰には身体の何倍もある長い刀を差し、鞘の先には引きずらないように車を付けていたため周りから馬鹿にされる事もあったが、武芸の腕では誰も勘兵衛の右に出る者はいなかった。
ある日勘兵衛は、殿様から船の着く福山(現在の霧島市)までお金を取りに行くよう命じられ、いつもの格好で福山に出かけてお金を受け取ると帰り道にある男とすれ違う。男は銀次という名のスリで、銀次は勘兵衛の銭袋に目をつけ何とか騙して銭袋を盗もうと強引に勘兵衛の旅のお伴を願い出た。
勘兵衛も渋々これを承諾し二人は旅を続けるが、途中その身なりで鞘の中身をどうやって抜くのかという銀次の質問に、勘兵衛は一旦銭袋を銀次に預けると一瞬で刀を抜き取り銀次を納得させた。しかし今度は銀次が銭袋を持ったまま勘兵衛の後ろを歩くと言いだすので、勘兵衛は仕方なく銀次の前を歩き、そして屋敷に到着するまで銭袋を持ち去れなければその首を貰おうかと冗談を言った。
それを聞いて銀次は隙を見て銭袋を持ち逃げしようとするが、逃げようとする度にいつの間にか道すがらに斬られた木の枝が目の前に落ちてくる。銀次はとんでもない侍と関わってしまったと後悔するも、結局最後まで逃げ出せずに持ち役にされとうとう勘兵衛の屋敷の前まで来てしまった。
重い銭袋を持ち続けへとへとになった銀次は銭袋を勘兵衛に渡し帰ろうとするが勘兵衛に呼び止められ、人を外見だけで判断してはいけないと諭された。ここで銀次はようやく相手があの黒原勘兵衛だという事を知り、大変恐れ入ったという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2012-10-21 3:10 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 鹿児島の伝説(日本標準刊)より |
場所について | 曽於市末吉町諏訪方(地図は適当) |
このお話の評価 | 9.33 (投票数 9) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧