昔、薩摩の桜島の近く日当山(ひなたやま)という所に、徳田太兵衛という地頭がおりました。頭の働きがとても良く、機知と頓知に長けていて、時には殿様をもやり込めたりするもので、周りの人から「ひなたやまどん」と呼ばれ、たいそう慕われておりました。
たとえば、茶の実などどこにもない季節に、殿様から茶の実を持ってこいと命じられると、ひなたやまどんは、日当山で一番茶を飲む婆さまに座敷を這わせ、「茶飲み(=茶の実)が、這え(生え)ましてございます。」と、殿様をやり込めるのでした。
殿様は何とかひなたやまどんを困らせてやろうと、ある冬の日、近在の地頭たちを鴨料理に招待しました。そうして、ひなたやまどんのお膳だけは大根料理にしておいたのです。ひなたやまどんは怒って、すごい勢いでお膳を平らげ、さっさと帰って行きました。
しばらくして、殿様のもとにひなたやまどんから「日当山に鴨の大群が来ているので、ぜひ狩りにおいで下さい。」という手紙が届きました。その日は灰がたくさん降っていましたが、殿様は構わず日当山に向かいました。ところが、あちこち走り回っても、鴨などどこにも見あたりません。
殿様はかんかんに怒りましたが、ひなたやまどんは飄々と、「先日の鴨のご馳走は全部大根でしたので、大根を鴨を呼ぶのかと思いましてご案内いたしました。」と言ったそうです。殿様が走り回った所は実は広い畑で、百姓たちが大根に積もった灰を一生懸命払っているのでした。
こうしてまたやり込められた殿様は、ひなたやまどんを城に連れ帰り、本物の鴨のご馳走をうんとふるまったそうです。そうして、殿様は灰に苦しむ村人の暮らしをひなたやまどんから直に聞かされ、それからは村人達の暮らしをよく見て回るようになったそうです。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-9-10 22:48 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 鹿児島県 |
場所について | 日当山(地図は適当) |
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