昔、三重県名張(なばり)に豪族が住んでいました。その豪族の娘、紅姫(べにひめ)が、赤目山にばあやと一緒に紅葉狩に出かけたときのことです。
紅姫はあまりの紅葉の美しさに「母上は紅葉がことのほかお好きだから、ひと枝持って帰って見せて差し上げよう」と紅葉の枝を折りました。すると、瞬く間にあたりの様子が一変し、強い風が吹いて霧が立ち込めました。
風がやんで紅姫が顔をあげると、ばあやが居ないばかりかどういうわけか全く知らない場所に来ていました。霧が晴れ自分が居る場所を見てみると、なんとそこは断崖絶壁の上でした。
あまりの事に紅姫がうちひしがれていると「いかなる理由があろうと山を傷つけてはならない。罰として紅葉の繊維を糸として百尺の布を織り上げ、絶壁を下りて帰るように」と神様の声がして、機織り機が現れました。
それから紅姫は紅葉の木から繊維をとると、必死に機を織り始めました。しかし、慣れぬ機織りは進まず、季節は秋から冬に、そして春になっていきました。苦労の末に、紅姫は百尺の布を織り上げ、それを伝って断崖の下にたどり着くことができました。
するとそこには、ずっと紅姫を探し続けていたばあやが立っていたのです。「よくぞご無事で」と駆け寄るばあやと一緒に、今まで苦労して織り上げた百尺の布を見上げると、なんと紅姫が織った布は瞬く間に滝に変わったではありませんか。
驚く紅姫の耳に、「お前の布を織りあげた時のこの魂が消えぬ限り、この滝は永遠に流れるだろう」と神様の声が聞こえました。紅姫が布を曳いて滝ができたので「布曳滝」と言い、今でもこの滝は途切れることなく流れ続けているということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-6-22 0:39 )
※ 3.3尺で約1m 100尺=約30m
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 三重県 |
場所について | 布曳滝(赤目四十八滝)地図は適当 |
このお話の評価 | 8.57 (投票数 7) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧