昔、九州は宮崎でこんな話が残っているそうじゃ。
人里離れた山奥の谷に、炭焼きの家があった。雨が降る晩のこと、炭焼きの親父が寝ていて、悪夢にうなされて起きた。その悪夢とは、加減な納品の返事をした炭焼きの親父を、炭屋の商人がひたすら責めてくる夢だった。
親父は悪夢にイライラして手元にあったマスを投げると、小屋の隅に置いてあった琵琶にコツンとあたった。この琵琶は前年に旅の坊さんを泊めた時、お礼として貰ったものだった。
再び眠りについた頃、突然「ヨイ!!」と大きな声がした。親父は起きて戸を開けてみたが雨が降っているだけで誰もいない。おかしなこともあるもんだと思っていると、また「ヨイ!」と声がして、ついいつもの癖で適当に「おい!」と返事を返してしまっていた。
すると今度は「ヨイ!!!」と、家の中で声がする。気味悪くなってきた親父は家の中を走り回って返事をしていたが、やがて山姥が姿を現し、「ヨイ!!!」と叫んできた。
このあたりでは、山姥の声に返事をしてしまうと必ず声比べをしなければならず、もし負けてしまうと喰われてしまうと言われていた。親父は声を限りに山姥の声に返事をしていたが、喉はしだいに渇き、声がでなくなってきた。
もはやこれまでかと思った親父だったが、親父は置いてあった琵琶で返事をすることにした。山姥はずっと声をかけてくるので、もう親父は必死になって琵琶を弾いて返事をした。声比べは延々と続き、やがて山姥の気配が遠ざかるのと同時に親父は気絶した。
翌朝、親父は小川のせせらぎを聞いて目を覚ました。そして「あぁ、いい加減に返事をするもんじゃない」と琵琶を抱きしめながら何度もつぶやき続けた。この世の中で最も恐ろしいのはいい加減な返事をすることなのだという教訓のお話じゃ。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-9-14 0:34)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 宮崎のむかしばなし(日本標準刊)より |
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