昔、ある村に貧しい百姓のおじいさんとおばあさんが住んでおりました。この年まで一生懸命働いても、福の神にもめぐり会えず、働いても働いても貧乏でした。今日は節分だというのに、豆一粒買うお金もありません。そこで二人は着物を質に入れて、豆を買う金を工面しようとしました。しかし、街の質屋へ行くと二人の着物だけでは足りず、おばあさんの腰巻きまで質に入れるはめになります。
こうしてやっと豆を買うことができた二人は、家に帰ると早速豆を炒り、いつもの年のように豆まきを始めました。しかしおばあさんの腰巻きまで質に入れての豆まきです。二人はなんだか悲しくなってしまいます。そこでおじいさんは言います。
「この年まで一生懸命働いても福の神様は来られなかった。いっそのこと、「鬼は外、福は内」を反対に言ってみよう。」そこで二人は、「鬼は内、福は外」と言いながら豆を撒き始めました。
その瞬間、雷のような大きな音がして、気がつくと家の中に大きな赤鬼と青鬼がいました。鬼たちは、「節分の日に人間の家に招かれるのは有り難い。存分に楽しませてもらおう。」と言うと、おじいさんの案内で街の質屋まで飛んで行き、そこで自分のはいている虎のふんどしを質に入れ千両の大金を借ります。
ところが、そこには鬼退治で有名な鍾馗様(しょうきさま)の掛け軸があったので、鬼はこれを見て震え上がり千両箱を抱えて質屋を飛び出してしまいます。夜中なので店を閉めていた魚屋、米屋、酒屋を起こすと、そこでたくさんの酒や食べ物を買い、おじいさんの家に帰って飲めや歌えの大騒ぎをする鬼たち。この鬼たちのドンチャン騒ぎは、寝静まっていた近所の家々を起こしてしまい、とうとう我慢できなくなった隣家のおじいさんが苦情を言いに来ます。
隣家のおじいさんは戸をたたきながら言います。「うるさい、この酔っ払い!!」するとこれを聞いた鬼たちは「お主こそ、この夜中に大声を張り上げて酔っ払っておるんじゃろ?」隣のおじいさんがまた言います。「わしは酔ってなどおらぬ。わしは正気じゃ。」
これを聞いた鬼たちは、なぜか震え上がって怯えだしました。鬼たちは、隣のおじいさんの言った“正気”と鬼退治の“鍾馗様”を聞き間違えたのでした。鍾馗様に退治されてはかなわないと思った鬼たちは、天井を破り、家を飛び出し夜空を飛んで逃げて行きました。鬼たちは最後に、「じいさん、ばあさん達者で暮らせよ。千両箱の残りは世話になった礼じゃ。」と言って去って行きました。
これを見たおじいさんとおばあさんは、あの鬼たちは、福の神さまだったのかもしれないと思うのでした。その後、おじいさんとおばあさんは、鬼たちの言った通りいつまでも達者に長生きしたそうです。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-6-12 11:21 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 中村和三郎「雪国の民話」より |
出典詳細 | 雪国の民話,中村和三郎,文憲堂七星社,1972年01月15日,原題「節分の鬼」,採録地「新潟県の川西町高倉」 |
場所について | 川西町高倉(現在の十日町市高倉戊、地図は適当) |
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