昔、伊勢の国の榊原の安子というところに、三九郎じいさんが住んでおった。三九郎じいさんは毎日、近くの布引山で薪を拾って生活しておった。
三九郎じいさんの楽しみは、昼飯を食べ終えた後に、しばし昼寝をすることであった。ところが、昼寝をしていると近くの平尾山に住んでいるきつねがいたずらをしにくるのであった。
きつねは三九郎じいさんが薪を街に売りに行った帰りにも毎回のように現れ、三九郎じいさんをからかうのであった。人の良い三九郎じいさんであったが、毎回きつねにこうもからかわれると、きつねのことを大変腹立たしく思うのであった。
ある日のこと。三九郎じいさんは今日こそはきつねをこらしめてやろうと思っていた。ある日の街からの帰り道。いつものようにきつねが現れた。三九郎じいさんはここぞとばかりに、きつねに捕まえようとするが、どうしても逃げられてしまう。やっとのことできつねを捕まえたが、家につくとすでにばあさんは寝ておった。
「ばあさんがこんな時間に寝てしまうとは珍しい」と思いながらも家に入っていくと、きつねは逃げ出し、家の中に入って行ってしまった。三九郎じいさんは家の中を探したが、どこにもいない。すると大事におまつりしてある仏様が2つになっていることに気が付いた。どちらかはきつねが化けたものであるが、どうしても見分けがつかない。そこで三九郎じいさんはあることを思いついた。
「うちの仏様はごはんをお供えすると、鼻をヒクヒクさせて召し上がるありがたい仏様じゃ」といいながら、2個のお供えご飯を出した。するとしばらくして、右側の仏様が鼻をヒクヒクさせた。「まんまとひっかかったな」と三九郎じいさんは言いながら、仏様の顔を思い切りたたいた。仏様はきつねの姿に戻り、あわてて山へ帰って行った。
こうしてきつねの鼻はぺしゃんこになってしまった。そしてそれから、きつねは三九郎じいさんの姿を見ても、決してからかうことはなかったそうじゃ。
(投稿者:カケス 投稿日時 2014/5/6 10:37)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 伊勢・志摩の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 伊勢・志摩の伝説(日本の伝説32),花岡大学,角川書店,1979年3年20日,原題「いたずら狐のぺちゃんこ鼻」 |
場所について | 三重県津市榊原町安子(地図は適当) |
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