昔々、ある所に東村という村があり、そこには藤兵衛(とうべえ)どんという大変なものぐさ男が住んでいた。この藤兵衛どん、畑仕事はおろか嫁さんをもらうのも面倒と言い、挙句の果ては、口を開けて物を食べるのも面倒で3日も飯を食べないという有様だった。そんな訳で藤兵衛どんは、年がら年中家の中でボーっとしていた。
そんな藤兵衛どん、ある夏の日に隣村の西村まで用事で出かけることになった。ところが藤兵衛どん、家の戸口に出て、おっかさんに弁当の握り飯を腰に結んでもらうも、自分で歩き出すことが出来ない。そこでおっかさんに突き飛ばされて、ようやく家の前の坂道を下りて行った。
ところが、突き飛ばされた勢いで歩いていた藤兵衛どん、あと1つ山を越えれば西村というところで足が止まり、歩けなくなってしまった。その時、ちょうど峠から馬を連れて降りてきた人がいた。山のてっぺんを見上げて、ボーッと突っ立っている藤兵衛どんを見て、山の上に何かあるのかと思い、山を見上げてみる。しかしその時、馬が暴れだし、馬は後ろ足で藤兵衛どんを蹴り上げてしまった。
すると馬に蹴られた藤兵衛どんは、山の上まで飛んでいき、てっぺんに生えている木の根元に落ちた。さすがの藤兵衛どんも、今日は体を動かしたので腹が減ったとみえて、握り飯が食べたくなった。ところが、腰につけた握り飯を取るのがどうにも面倒臭い。
すると西村の方から大口を開けて峠を登ってくる者がいる。藤兵衛どんはこの男に、握り飯を半分やるから、腰の握り飯を取って自分の口に入れてほしいと頼んだ。ところが男は、そんな面倒なことは出来ないと言う。この男、実は西村でも有名なものぐさ男の清兵衛(せいべえ)といい、あきれたことに緩んだ笠ひもを自分で直すのが面倒で、笠がずり落ちないように大口を開けて歩いていたのだ。
そこで清兵衛どんは、誰か通りかかった人に笠ひもを直してもらおうと、峠の木の下に休んで人が通るのを待った。一方、藤兵衛どんも握り飯の包みをほどいてくれる人が通るのを待ち続けた。こうして東村と西村のものぐさ者2人は、夕方になっても、日が落ちても、いつまでも山の上でじっとしておったそうな。
その後2人がどうなったかと言うと、たまにはあんなものぐさ者になってみたいものだと、村人から羨ましがられ、ずいぶんと長生きしたそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-12-10 11:11)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 柴野民三(偕成社刊)より |
出典詳細 | こっけい・ばかばなし(幼年版民話05),柴野民三,偕成社,1973年12月,原題「ものぐさどうし」 |
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