むかしある海に、エビとタコとフグの子供がおった。この子供達はみんな、自分以外の者になりたいと言って駄々をこねておった。親が心配して、それぞれ得意な芸を見せて慰めようとしても全く効き目はなかった。
エビの子供は、エビは尻尾でピンピン跳ねるから嫌じゃと言うし、タコの子供は、タコは手足がくねくねしておるから嫌じゃと言うし、フグの子供は、フグはまんまるに膨らむから嫌じゃと言うのじゃった。この三匹の子供は仲が良く、いつも隅っこに集まっては己の身の不幸を嘆いて愚痴ばかり言っておった。
ある暑い夏の日、三匹は陸に上がり、浜の松の木陰で涼んでおった。ところがそれを腹をすかせた鳥が見つけた。鳥は早速三匹を捕まえて、松の木のてっぺんに運び上げた。三匹が一生懸命命乞いをすると、鳥は「何か芸をして自分を楽しませることができれば命だけは助けてやる。」と言うたそうな。
エビの子供はとっさに、海の中で親がやっていた芸を真似て、尻尾でピンピン飛び跳ねながら歌って見せた。続いてタコの子供も、親がやっていたように手足をくねらせ墨を吐きながら踊って見せた。ところがフグの子供はというと、芸など何にもできんと言ってただ蹲っていた。
鳥は今にもフグを食べてしまおうとするし、慌てたエビとタコは鳥の前に転がり出て「やっちゃうよ、やっちゃうよ、フグの人殺し♪料理のしようで人は殺さん♪ てれつくてんてん、どっこいこい♪」と踊った。フグの子供もつられてピンポン玉のようにまんまるに膨らんで見せた。鳥はそれを見て、「フグは毒を持っているのか…。」と思い、三匹を喰わずに飛び去ったそうな。
エビとタコとフグの子供は、こうして鳥に食べられずに済んだということじゃ。そうしてこの三匹、その後はそれぞれの芸に磨きをかけ、海の中で楽しく暮らしたそうじゃ。
親から貰ろうた体や技じゃ。大切にしなきゃあいかんということじゃなあ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-7-7 8:21 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 稲田和子「稲田稿」より |
出典詳細 | 日本昔話百選,稲田浩二・稲田和子,三省堂,1971年04月15日,原題「えびたこふぐとからす」 |
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