昔、あるところにお百姓の夫婦が住んでおりました。この夫婦にはお花という娘がいました。お花は『物忘れ』が多いのが玉に瑕で、鶏のえさやりなどを忘れてしまったりしていました。
ある日のこと、お花は村一番のしっかり者の若者に見初められてお嫁に行くことになりました。嫁ぐ日、父親は言いました。「お花、お前は気立ても良いええ娘じゃと思うとる。じゃが『物忘れ』が酷い。くれぐも気をつけてしっかりするんじゃぞ。」こうしてお花は嫁入りしていきました。両親は毎日『物忘れ』していないだろうかと心配でした。
1ヶ月後、家に帰ると炊煙が昇っています。嫁いだはずのお花が家に帰っていたのです。両親が娘に理由を聞くとお花は「もう帰れねえだ。」といって泣き出しました。お花は『物忘れはしない』と焦れば焦るほど水汲みを忘れたり、食事の支度を忘れてしまったのです。怒った夫はお花を里に帰してしまったのです。
この日以来、お花はぷっつりと笑わなくなってしまい、瞬く間に1年が経ちました。途方に暮れた両親は和尚さんに相談しました。話を聞いた和尚さんは「良い思案がある。任せておきなさい。」と言って、数日後にお花の家にやってきました。「お花を勘五郎の嫁にやっては?」
「勘五郎の!!!」両親は大変心配しましたが和尚さんの強い勧めもあり、お花は勘五郎と再婚しました。勘五郎は大喜びでしたが、お花の様子は変わりませんでした。
ところで勘五郎はお花に負けず『物忘れ』が多く、畑に種を蒔くために出かけても、しょっちゅう「クワを忘れた」「弁当を忘れた」と言って家に帰ってきました。ついに夕方になってしまいました。「しもうた夕暮れじゃ。種まきは明日じゃ。」あっけらかんとした勘五郎の言葉にお花はお腹を抱えて笑いました。「お花、おめえ初めて笑っただな~~」といって勘五郎も笑いました。
それ以来お花は「勘五郎さんは三国一の良い亭主じゃ。」といって和尚さんに感謝して、夫婦仲良く暮らしました。
(投稿者: のんの 投稿日時 2012-2-17 20:44 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 水澤謙一(未来社刊)より |
出典詳細 | 越後の民話 第一集(日本の民話03),水澤謙一,未来社,1957年10月10日,原題「勘五郎と烏」,採録地「岩船郡朝日村字釜杭」,話者「阿部操」 |
場所について | 岩船郡朝日村字釜杭(現在の村上市釜杭、地図は適当) |
8.33 (投票数 6) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧