昔、九州は日向国に山に囲まれた小さな村があった。この村は土地が悪く何を植えても作物が育たず、毎日が食うや食わずの暮らしだった。困り果てた村人達は、こうなったら神徳寺(じんとくじ)の山門に立っている仁王様にお願いしてみようと毎日神徳寺に通い、どうか作物が獲れるようにとお願いし続けた。
そんなある日、村人達の願いが通じたのか仁王様の目から丸々と太った大豆がポロポロと落ちてきた。これを畑に植えろという事に違いないと喜んだ村人達は、早速村に持ち帰り畑に撒いてみた。仁王様の大豆は丈夫な芽を生やすと大きく育ち、今まで何も育たなかった村の畑はよく実った大豆でいっぱいになった。
毎年獲れる大豆のおかげで村は食うには困らなくなり、村人達は俵に詰め込んだ大豆を町へ売り出すようになった。村の大豆が美味しいと評判になり益々売れると村はどの家も大金持ちになったが、男達は朝から飲めや歌えの大騒ぎ、女達は着物を買って競い合いの贅沢三昧で、豊作に慣れた村では仁王様にお参りする者がいなくなってしまった。
そしてある晩、誰にも手入れされず年々傾いていた仁王様がとうとう山の谷間に落ちてしまう。すると元気だった大豆の苗が一晩で枯れ、村人達が何度植えても大豆は育たずに村は寂れ始め、再び元の荒れ地に戻ってしまった。これは仁王様を粗末にした罰が当たったのだと村人達は噂し合い、仁王様を谷から引き上げる事にした。
村人達は太い縄を作り、それを仁王様に括り付けると村人全員で力を合わせて仁王様を引き上げ、やっとの事で元の山門に立てる事ができた。村人達は今まで仁王様を放っておいた事を心から詫び、神徳寺にも手入れをしてまたお参りするようになった。その後、畑の大豆がまた少しづつ獲れるようになってきたのでこの村では仁王様を大豆の神様としていつまでも大切に祀ったという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2012-11-1 16:47 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 比江島重孝(未来社刊)より |
出典詳細 | 日向の民話 第一集(日本の民話14),比江島重孝,未来社,1958年11月29日,原題「大豆の神様」,採録地「西諸県郡」,ほろびゆく日向の伝説より |
場所について | 狭野神社 |
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