昔、あるところに大金持ちの男がいました。この家には、先祖代々、唐土(もろこし)の青磁といわれる青い皿が、家宝として受け継がれていました。
この男もこの皿を大切にして、皿を箱から取り出して眺めてはうっとりする毎日を過ごしていました。
ある時、友人と大阪のちょっと名の知れたところへ食事に出かけました。そこでは、大切なお客様には特別なお皿で、ご馳走を出してくれました。
男は、出されたご馳走に舌鼓を打っていましたが、ご馳走が盛り付けてあったお皿が、わが家の家宝の皿と全く同じ皿であることに気が付きました。男は大慌てで、自宅の家宝の皿を確認しに戻りましたが、わが家にはきちんと桐の箱に収まった状態で保管されていました。
男は、「天下に二つとない名器である家宝の皿が、世の中に二つもあるとわが家の名前に傷がつく」と思い、店主に皿を30両で譲ってくれるように懇願しました。店主は「どんな額でも家宝の皿ゆえ譲れない」と断りましたが、男は強引に30両を投げよこし、皿を取り上げて庭に駆けだしました。
そして、男は庭の石に皿を投げつけ、粉々に砕いてしまいました。男は「これで、皿は世の中に一つだけになった」と、安心して自宅へ帰りました。
家に帰った男は、いつものように大切な家宝の皿を眺めて楽しもうと思い、桐の箱のふたを開けてみました。すると不思議なことに、皿は粉々に砕けていて、桐の箱の裏からあの時の30両が落ちてきました。
(紅子 2013-9-22 22:35)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 川崎大治(童心社刊)より |
出典詳細 | 日本のふしぎ話(川崎大治 民話選3),川崎大治,童心社,1971年3月20日,原題「家宝の皿」 |
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