むかし、土佐の山奥に、大鬼と子鬼が平和に暮らしておった。ある日、二匹の鬼が谷で遊んでいると、呟くような老人の声が聞こえてきた。
みれば、爺と小さな子供が壺を土の中に埋めながら神様に祈っておった。爺は久礼(くれ)の浜の者だといい、海が荒れて家族が皆波にさらわれたので、海が静まるように祈っているのだという。孫の手を引いてとぼとぼと山を降りる爺の姿が、大鬼の心にいつまでも残った。
それから何日かが過ぎた頃、嵐がやってきた。大鬼は岩屋にじいっと座って爺と孫のことを考えていたが、やがて金棒の両端に大岩を突き刺し、その上に子鬼を乗せ、久礼の浜へ降りていった。大鬼は子鬼に、山で待っておれと言うたが、子鬼はどうしてもついて行くと言って聞かんかったんじゃと。
浜では、荒れ狂う海を前に、村人が竹の先に鎌をつけ嵐を追い払おうとしておった。大鬼は子鬼に浜に残るよう言うたが、子鬼はどうしても大鬼から離れんかった。大鬼は子鬼に『ならば泣くな。』と言い聞かせ、大岩を担いだままざぶざぶと海の中に入っていった。波に押し戻されそうになりながらも、大鬼は湾の入り口へ向かって進んでいった。
じゃが、やがて大鬼の全身が海中に沈みはじめた。「おっ父!おっ父!」 子鬼が初めて大声で泣き叫んだが、ついに金棒の先の大岩二つとその上にちんまりと乗っかった子鬼を残し、大鬼の姿は海の中に消えていった。
荒れ狂う波は、大鬼の体と掲げた大岩に遮られて久礼の浜まで届かなくなった。子鬼は泣いて泣いて大鬼を呼び続け、とうとう小さな岩になってしもうたそうな。
大鬼が沈めたこの岩は双名島(ふたなじま)と呼ばれ、金棒に突き刺した穴が一つづつ開いているという。そうして、そのすぐそばに子鬼のなった岩も烏帽子岩と呼ばれて残っており、今も荒波から久礼の浜を守っている。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-12-9 11:36 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松谷みよ子(講談社刊)より |
出典詳細 | 日本の伝説1(松谷みよ子のむかしむかし06),松谷みよ子,講談社,1973年11月20日,原題「土佐の鬼」,採録地「高知県」 |
備考 | 採録地は転載された本(日本の伝説下巻,松谷みよ子,講談社,1975年7月15日)で確認 |
場所について | 土佐の双名島 |
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