昔、加賀の国の鍋谷川(なべたにがわ)下流に鍋谷七ヶ村(なべたにななかそん)という村と、和気山ヶ村(わけさんかそん)という村があった。この鍋谷川の大きな淵は、ヌシが住んでおるという噂だった。
ある年の夏。ひどい日照りで、和気山ヶ村の田畑はカラカラにひび割れてしまう。そこで、村の若者とじいさまが鍋谷川のヌシにお願いにいくことになった。やっと淵にたどりつき、若者がクワで水口を開こうとしたとき、誤ってヌシである大カニの足を打ってしまう。逃げだしたふたりにカニのヌシの恐ろしい声が聞こえてきた。「おのれ、和気の者め!間に鍋谷ヶ村がなければ、和気山ヶ村を押し流してやるものを!」
秋のある日。若者とじいさまは近くの温泉へ出掛けていった。若者が湯につかっていると、妙な侍から「おまえさんはどこからきた?」と聞かれた。若者は「和気のもんじゃが」と答えたが、とたんに侍の顔が厳しくなり「なに!和気のもんじゃと。わしはこの夏、クワで足を打たれてまだ治らんわ。」といって、どこかへ消えてしまった。
次の日、若者とじいさまが村へ帰ろうとすると、あの侍が現れて一緒に帰ろうと後からついてきた。ところがその侍はまるでカニの横ばいみたいに、足をひきずって歩いてくる。若者はなんだか気味が悪くなってきた。
しばらく行くと、鍋谷村の炭焼きに声を掛けられた。若者が後ろを振り返ると、侍の姿は、もうどこにも、見あたらなかった。若者は、あの妙な侍のことを炭焼きに話すと、炭焼きは「その侍なら、古くからこの谷に住んどるそうじゃ。カニみたいな歩き方で、足を引きずりながら沢を登っていったがのう」それを聞くと若者は叫んだ。「やっぱりあれは鍋谷川のヌシのカニじゃ。あんときのキズが治らんので、温泉に湯治に来たんじゃ。」
それからというもの、村人たちが淵へ雨乞いに行く時には、何度も何度もあの時のお詫びをし、またお供えもたくさんするようになった。
(投稿者: きくぞう 投稿日時 2012-3-10 14:27)
ナレーション | 未見のため不明 |
出典 | クレジット不明 |
場所について | 鍋谷川(地図は適当) |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第23巻-第112話(発刊日:1978年8月15日) |
サラ文庫の絵本より | 絵本巻頭の解説には地名の明記はない |
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