昔々、あるところに寝てばかりいる男がいた。生まれてこの方、馬鹿でかい大いびきをかいて寝ていることから、村の衆からは『寝太郎』と呼ばれていた。両親は息子の行く末を心配するばかりだった。
そんなある日のこと。寝太郎が突然起きだし、山に行くから握り飯を作ってほしいと母親に頼んだ。両親は寝太郎がやっと起きてくれたと喜び、握り飯を作って送り出した。寝太郎は、あちこちの里が見渡せる山の頂上にやって来て握り飯を食べた。ちょうど握り飯を食べ終えた頃、遠くから何やら歌声が聞こえてきたので、寝太郎は歌声のする方へ目を向けた。
すると、沢山のねずみたちが長者屋敷から小判を運び出してきたかと思うと、寝太郎のまわりで小判の虫干しを始めた。寝太郎はきらきら光る小判の行列を観ているうちに、大いびきをかいて眠ってしまった。
夕方になり、寝太郎が目を覚ました時には小判の虫干しは終わっていた。彼が家路に就こうとした時、足元にいたねずみの長老が寝太郎を呼びとめた。長老が寝太郎に話があるというので、寝太郎は長老の話に耳を傾けた。
「最近、長者の一人娘が婿を取ることに決まったが、結婚相手が小判に目がくらんだ悪い奴で、言葉巧みに長者に取り入り、婿に収まったあかつきには小判を持ち逃げしようと企んでいる。もし小判が無くなったら、小判を守る仕事もなくなり、我々は路頭に迷ってしまう」と涙ながらに話すのだった。
それを聞いた寝太郎はすぐに山を下りていった。その夜、何を考えたか寝太郎は立派な着物に袖を通し、長者屋敷の木に登った。そして木の上から長者父娘にこう告げた。「わしはこの家の守り神なるぞ。今ある婿取り話を潰し、寝太郎という男を婿に取らないと災難に見舞われる」
恐縮した父娘はその言葉に従い、今の婿取り話を潰し、寝太郎を長者屋敷の婿に迎えた。村の人々は、働きもせず寝てばかりいる寝太郎が、長者の婿になったことを大変驚いた。しかし寝太郎の方はというと、長者屋敷の婿になっても相変わらず馬鹿でかい大いびきをかいて寝てばかりいた。
そんな寝太郎を見て、今度寝太郎が起きたら何をするのだろうと人々は噂しあうのだった。
(投稿者:Kotono Rena 投稿日時 2014/12/12 20:23)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 澤渡吉彦(未来社刊)より |
出典詳細 | 出羽の民話(日本の民話06),澤渡吉彦,未来社,1958年04月20日,原題「寝太郎ものがたり」,採録地「南村山郡」,話者「江口文四郎」 |
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