昔ある所に五兵衛(ごへえ)という大工がいた。ある日仕事で帰りが遅くなった五兵衛は途中友達の家を訪ね、偶然そこで友達の嫁の出産に立ち会う。峠越えのため提灯を借りた五兵衛は産婆さまに「今、夜道を歩くとお産の血の臭いを嗅ぎつけて山犬が出るぞ」と言われるも、これを無視して暗い峠道を上った。
ところが峠の中ほどまで来た時、嫌な予感がした五兵衛が提灯を近づけると、なんと恐ろしい顔をした山犬が道の前と後ろを挟みこみ五兵衛を睨みつけている。身の危険を感じた五兵衛はふと、昔死んだ爺さまに「もし山犬と遭遇したら友達のように振る舞ってみろ」と教えられたことを思い出し、山犬たちに自分の帰りを待ってくれたのかと気さくに話しかける。そして一緒に見送りをすれば後でご馳走もすると約束した五兵衛が歩き出すと、不思議なことに山犬たちも五兵衛の後をついていった。
二匹の山犬はどこまでも五兵衛の後について歩き回り、一瞬の隙も見せず怯えながら峠を下りるうちに、五兵衛はいつの間にか自分の家の近くまで着く。五兵衛は山犬たちにお礼を言い、今晩赤飯を炊いて家の外に出すから後で食べにくるように告げると無事家に辿り着いた。
翌朝外を見てみると、やはり山犬たちが食べていったらしく桶の中の赤飯は綺麗に無くなっていた。今ではもう見られなくなった山犬だが、恐ろしい山犬にも人間の言葉や気持ちが伝わったという話だ。
(投稿者: はんぺん 投稿日時 2012-2-7 2:21 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 市原麟一郎(未来社刊)より |
出典詳細 | 土佐の民話 第一集(日本の民話53),市原麟一郎,未来社,1974年06月10日,原題「峠の山犬」,採録地「宿毛市」,話者「青木いく誉」 |
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