昔、長門の宇部大字藤曲(ふじまがり)という所に、田んぼや山でカラス石を掘るのを生業(なりわい)にする男がいた。カラス石とは、今で言う石炭のことである。
さて、この男は一頭の馬を飼っていたが、この男ときたら馬を可愛がるあまり、重い作業道具も掘り出したカラス石も全部自分で担ぎ、馬にほとんど仕事をさせないのだ。この様子を見て馬鹿にする者もいたが、男はそんな事は気にも留めなかった。
そんなある日、男はいつものように山に入ってカラス石を掘っていた。この日は場所が良かったのか、意外にもカラス石がたくさん取れた。そこで男は下関へ行き、そこで取れたカラス石を売ることにした。
その帰り道でのことだった。カラス石が売れて懐が暖かくなった男は、途中で一杯引っ掛けて帰路についた。男は上機嫌で歩いていたが、宇部まであと一里という所で日が暮れてしまった。そして悪いことに、ここら辺りに住む盗賊に目をつけられてしまったのだ。
「身ぐるみ剥いで置いていけ!!大人しくすれば、命だけは助けてやる!!」刀を持った盗賊が男を囲む。普通なら「命だけはお助けを~」とでも言うところだが、この男は違った。馬を可愛いがるあまり「馬だけは助けて~」と言い、馬にしがみついたのだ。
しかし多勢に無勢、男は盗賊たちに袋叩きにされてしまう。「大人しくすれば、命を落とすこともないのに。」そう言って盗賊が刀を抜こうとした時、それまで大人しくしていた馬が突然盗賊に襲いかかったのだ。馬は後ろ足で盗賊を蹴り上げ、さらに逃げる盗賊を追いかけ回す。その夜は一晩中、盗賊の悲鳴と馬の蹄の音が宇部の山々に響いたそうだ。
翌朝、目を覚ました男は、なぜ自分が助かったのか最後まで分からなかったという。そしてその後も、男は今まで以上に馬を大事にし、相変わらずカラス石を掘って歩いたということだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-11-9 18:32)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 山口県宇部市 |
場所について | 長門の宇部、大字藤曲(地図は適当) |
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