昔々、二人の武者修業の若い侍がある山の麓まで辿り着いた時、麓の茶屋の娘に打ち水をかけられてしまう。この仕打ちに二人は腹を立てるも、その娘のあまりの美しさに二人は服を濡らされたのも忘れ、つい茶屋に立ち寄り味噌豆を頼む事になった。
侍の一人が山を越えるのにどれくらいかかるか娘に聞くと、娘は「上るのに三里、峠から下るのに三里といわれております。」と答えた。茶屋を出た後も娘の事が 気になった二人は山を三里上るうちは互いに娘の年を言い当てていたが、やがて峠の真ん中まで来ると「二十歳だ!」「いや十九だ!」と言い争うようになり、 ついには刀を交えた喧嘩となってしまった。
しかしまだ分別が残っていたのかそれでは娘に聞いてみようという事になり、二人は急いで三里下って茶屋まで戻り、今度は茶屋の主人に味噌豆を頼んだ。主人が一旦店に下がるとまたあの娘が味噌豆を持って現れたので、二人は味噌豆を食べた後それぞれ 娘をこっそり呼び出し、「美味い味噌豆であった。」と代金とは別にお金を渡したうえでいよいよ娘に年を尋ねた。ところが娘は笑いながら「私は節分の晩の丁度十二時に生まれたため、年は十九と二十歳の間です。」と答え、この娘の上手い答えに二人の侍は満足しまた山道を上っていったのであった。
一方茶屋の主人は二人が去った後、「味噌豆は三里や四里戻っても食うものじゃ。」とつぶやきほくそ笑んでいた。すると向こうから別の武者修業の侍がやって来 るのを見て、主人はなんとお面を被り服を裏返すとあっという間に茶屋の娘に変装した。実は娘の正体は主人であり、わざと相手に打ち水をかけお客を捕まえて はまんまと店の味噌豆を頼ませていたという事だ。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2013-2-14 22:07)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 日向野徳久(未来社刊)より |
出典詳細 | 茨城の民話 第二集(日本の民話72),日向野徳久,未来社,1978年12月05日,原題「味噌豆は四里戻っても食え」,採録地「那珂郡」,原話「若林はつえ」 |
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