むかし、あるところにお人好しの親父とその息子がおった。
ある日のこと、親子は三年間育てた馬を町まで売りに行くことになった。そこで、息子が馬に乗ってそれを親父がひいて行くことにし、町までの道を歩いておると、親子を見かけた婆さんが突然怒鳴りつけてきた。
婆さんが言うには「親に馬をひかせて若い息子がそれに乗るなどと、親孝行も何もあったもんじゃねぇ!それに、若い時に楽をすると年をとった時に役に立たん人間になってしまうぞ!」というのじゃった。
お人好しの親子は「婆さんの言う通りかもしれん。」と思い、今度は親父が馬に乗り息子がそれをひいて町まで行くことにした。
しばらく行くと、今度は飛脚に会った。飛脚は「親父さん、長生きしたいなら普段から足腰は鍛えておかなければいかんよ。」と言うのじゃった。婆さんは息子に馬をひけと言うし、飛脚は親父に馬をひけと言うし、お人好しの親子はすっかり困ってしもうた。
仕方なく、親子は二人で馬に乗って町まで行くことにした。ところが、それを見た人々に「一頭の馬に二人で乗って、馬が可哀想じゃ。」と言われ、親子はまたまた困ってしもうた。
結局、親子は二人で馬を担いで町まで行くことにした。馬を担ぎ棒に縛り付け、それを担いで大汗をかきながら歩く親子を見て、道行く人々は大笑いしたそうじゃ。
ところが、やっとのことで町が見える峠まで来た時、親子はうっかり馬を落としてしもうたそうな。馬は担ぎ棒に縛り付けられたまま、坂道を滑り落ちていき、あっという間に崖から川に落ちて、そのまま沈んで見えなくなってしもうた。
長い間育てた大事な馬を町まで売りに来た親子じゃったが、人の言うことばかり真に受けて、結局は元も子もなくしてしもうた。まあ、少しは自分の考えというものをしっかり持たんといかんということじゃ。
(投稿者:ニャコディ 投稿日時 2014/8/26 10:05)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | クレジット不明 |
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