昔、ある一軒の傘屋で、傘屋の主人と奉公人の小僧が傘張りの仕事をしていた。店の中のタンスの上には「焼き物の婆さま」が置いてあって、ふたりの仕事ぶりを見守っているようだった。
その夜、小僧がひとり店に残り仕事をしていたが、仕事で使う糸が絡まり解けずに困っていた。そこへ焼き物の婆さまが小僧の許にやって来て「私が糸を解くので、お前は糸を巻くように」と言って、婆さまは歌いながら絡まった糸をあっという間に解いてくれた。
小僧はこのことを主人に話そうかと思ったが、信じてもらえないだろうと思い黙っていた。
ある日のこと、主人の娘が桶屋に傘を納めに行ったが、帰ってきたのは日暮れ時だった。
娘は「焼き物の婆さまが街へ連れて行ってくれて、あちこち見て回った」と話したが、主人は信じてなかった。
その夜、誰もいない傘屋に泥棒が入った。傘を盗もうとしたが、泥棒に気付いた焼き物の婆さまが、あの手この手の方法で盗みを阻止したおかげで、泥棒は盗みを諦めた。
幾日か経ったある日のこと。傘屋に桶屋の五作が遊びに来たて、自分の家にある「槍を持った焼き物の爺さま」の自慢話を、長々と話し始めた。傘屋の主人は自慢話を聞き流していたが、焼き物の婆さまは五作の話を一心に聞いているようだった。
ところがその翌朝、焼き物の婆さまは桶屋の「槍を持った焼き物の爺さま」の傍にいた。傘屋の主人が、焼き物の婆さまを持ち上げようとしたが、持ち上げることが出来なかった。焼き物の婆さまが、爺さまの隣りが気に入ったのだろうと思い、婆さまを持ち帰るのを諦めた。
この話を聞いて小僧と娘は寂しがったが、時折、桶屋に行き爺さまの隣りで嬉しそうに座る婆さまの姿を見ては、きっとこれが一番良かったのだろうと思うのだった。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-9-19 22:33)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | クレジット不明 |
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