越後に住むおじいさんとおばあさんが二人で伊勢参りに出掛けた。
お伊勢参りを無事に済ませ、明日は越後に帰るという宿での事だった。隣の部屋から楽しげな会話が聞こえてきた。おじいさんとおばあさんが声をかけて、部屋に入ると二人のとても美しい娘が座っていた。
二人は越後の蓬平からやって来て、今日伊勢に到着したと話した。蓬平はおじいさんたちの隣村だった。おじいさんたちはすっかり打ち解け合い、夜遅くまで話に花を咲かせた。二人は「お柳」「お杉」という名前だった。
伊勢から越後に戻ったおじいさんとおばあさんは越後の長い冬を伊勢参りの想い出を語りながら過ごした。春になって田んぼが一段落した二人は隣村まで出掛けた。しかし村人は蓬平から伊勢参りに言った娘はなく、また「お柳」「お杉」という名前の娘もいないという。二人は腑に落ちないまま帰って行った。
田植えが終わったある日の事、蓬平の村人が二人に村まで来て欲しいと呼びに来た。二人が村に行くと「柳の木」と「杉の木」に伊勢神宮の真新しい御札が付いていた。そして春になっても一向に芽を出さなかった二本の木は一気に芽吹いた。二人の娘は「柳」と「杉」の精だったのだ。
伊勢参りをしたいという思いは人も木も同じ。だから杉と松も伊勢参りをして楽しんだのだと村人たちは思った。それ以来、春になっても芽吹かない木があると「この木は伊勢参りをしている木じゃろう。」と言うようになった。
(投稿者: のんの 投稿日時 2012-5-9 23:32 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 辺見じゅん(角川書店刊)より |
出典詳細 | 土着の信仰(日本の民話06),辺見じゅん=清水真弓,角川書店,1973年9年25日,原題「お杉とお柳」,伝承地「上越地方」 |
場所について | 越後の蓬平(よもぎひら)周辺(地図は適当) |
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