昔あるところのお屋敷の裏庭に、一つの石がありました。この石は、先祖代々ありがたいと伝わる大切なお石さまでした。
この屋敷の旦那さんは、裏庭なんかに置いておくよりも、ありがたい八幡様の境内に運び上げたいと考えました。旦那さんはさっそく植木屋さんを数人集め、お石さまを担ぎ上げようとしました。
しかし、とりわけ大きくもないお石さまは、二人がかりで持ち上げようとしてもびくとも動きませんでした。見た目以上に重たいお石さまを8人がかりで担ぎ上げ、息を切らせながら八幡様の境内へ運びました。
その夜、屋敷の旦那さんは職人衆の労をねぎらって宴会をひらきました。夜も更けて、すっかり酔っぱらった旦那さんと職人たちは、座敷でそのまま寝込んでしまいました。すると不思議なことに、眠り込んでいた全員が「大きな石につぶされる」という悪夢を見て飛び起きました。
目を覚ました旦那さんたちは、「もしかして、境内に運んだお石さまは、男の石という意味のおいし様じゃなかろうか?」と考えました。翌朝、旦那さんたちはお石さまの元あった場所を掘ってみると、そこには女石さまが埋まっていました。この女石さまは、地面を掘れば掘るほど地中深くに沈んでいきました。
旦那さんたちは、「きっと男石さまと女石さまは、この裏庭で一緒にいたいのだろう」と考え、境内に安置した男石さまを元の場所に戻すことにしました。裏庭に戻される事になった男石さまは、境内に来た時とは逆にまるで軽石みたいに軽くなり、ひょいひょいと軽やかに運ぶことができました。
この二つの石は「男石様(おとこいしさま)」「女石様(おんないしさま)」と呼ばれ、末永く大切にまつられました。今でも、東京八王子の力石(ちからいし)というところにあるそうです。
(紅子 2013-7-7 0:43)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 東京のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 東京のむかし話(各県のむかし話),東京むかし話の会,日本標準,1975年09月25日,原題「お力石さま」,再話「古世古和子、来栖良夫」 |
備考 | 石は八王子の恩方の小林家の裏庭にあるとの事。 |
場所について | 八王子の恩方町(地図は適当) |
このお話の評価 | ![]() |
⇒ 全スレッド一覧