昔、駿河の国の三方原というところに一本の道があった。この道沿いに与兵衛とお花という働き者の百姓夫婦が住んでいて、いつも子供が欲しいと願っていた。
夫婦が町へ野菜を売りに行く途中、夫婦は三方原の一本道の途中で一息入れていた。ふとお花が足元に目をやると、小さな石ころが落ちているのを見つけた。思わずお花がその石を懐にしまうと、与兵衛が「石ころなんぞ拾ってどうするんだ」と言い、お花は名残惜しそうに道端に捨てた。
夫婦は、町ですべての野菜を売り終え、帰る途中の野原で、与兵衛がいきなり「痛い」と言いながら道端にうずくまった。与兵衛の草鞋に小さな石ころが食い込んでいて、その石は、町へ行く途中にお花が道端に捨てた石だった。それからまたしばらく行くと、今度はお花の草鞋にさっきの石ころが食い込んだ。与兵衛はそれを遠くに捨てた。
またしばらく行くと、捨てたはずの石ころが二人の後をつけてきた。そして驚く二人を追い越し、ころころと一本道を転がり始めた。二人が小石を追いかけていくと、その小石は与兵衛の家の中へと入って行って、どこか消え失せてしまった。
二人は不思議に思ったが、とりあえず夕飯を食べることにした。すると今度は飯の中にあの石が紛れ込んでいた。そんなこんなで石ころに振り回された夫婦はぐったりと疲れ、その夜は早々と寝ることにした。
そして翌朝。いつものように神棚に食べ物をお供えしようとしたとき、急に神棚の戸がかたかた鳴り出したかと思うと、なんとあの石ころが神棚の中に入っており、次の瞬間ぽーんと飛び跳ねてお花の懐の中に入って行った。
すると急に不思議な気持ちになって、数か月後に立派な赤子を産んだ。あの小石が、貧しくても一生懸命に働く夫婦に子宝を授けてくれたのだった。二人はその後も次々と子供に恵まれ、立派に育て上げたので、この家はずっといいことが起こるようになったのだという。その後この地方では一本道の石ころを安産の守り神・石神さまとし、大事に祀り上げたということだ。
(投稿者: 土竜 投稿日時 2012-12-24 2:20 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 菅沼五十一(未来社刊)より |
出典詳細 | 遠江・駿河の民話(日本の民話50),菅沼五十一,未来社,1973年06月20日,原題「三方原の石神さま」,原話「浜松の伝説」浜松市立図書館 |
場所について | 駿河の三方ヶ原(みかたがはら) |
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