昔、和歌山の山間の村にお梅という女がいました。嫁ぎ先で夫が亡くなってしまい、実家に戻ってきました。
いつまでも悲しんではいられないと思ったお梅は、ぼた餅を作って海沿いの加太(かだ)の村に売りに行く事にしました。しかし、加太ではぼた餅はさっぱり売れず、お梅はがっかりして家路につきました。
家に帰る途中、薄暗く物騒な大川峠にさしかかると、道端にお地蔵さまが打ち捨てられていました。可哀想に思ったお梅は、お地蔵さまを起こして、ぼた餅を全部お供えしました。
翌日も、お梅は元気にぼた餅を担いで加太の村に売りに行きました。するとどうしたことか、その日はぼた餅が売れに売れ、あっという間に完売しました。その日から、お梅のぼた餅は飛ぶように売れるようになり、やがてお梅は加太の村以外にも、磯の浦や百合ヶ浜まで足を延ばすようになりました。
ある日、お梅はすっかり帰りが遅くなってしまいました。暗い大川峠のお地蔵さまの前を通りかかると、突然山賊が現れました。山賊は「命が惜しければ有り金を全部だせ」と、お梅を脅しました。
すると、お地蔵さまの前にお供えしてあったぼた餅から、とてもいい匂いがしてきました。山賊たちがおもわずぼた餅に食いつくと、なんとそれはお地蔵さまが見せた幻影で、実際はただの石でした。
石を食べた山賊たちは腹痛に苦しみ、お地蔵さまに許しを乞いました。お地蔵さまから腹の石を取り出してもらった山賊は、這う這うの体で逃げていきました。
その後、お梅はお地蔵さまのアドバイスによって、お地蔵さまの近くに茶店を作りました。そして、年老いた母親と二人で切り盛りました。お梅のぼた餅茶屋は大変繁盛し、お地蔵さまにも毎日ぼた餅をお供えしました。
このお地蔵さまは「ぼた餅地蔵」と呼ばれるようになり、長くこの地域で愛されました。
(紅子 2013-9-4 2:22)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 和歌山県 |
場所について | 大川峠(地図は適当) |
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