昔、街から街へ反物を売り歩く行商人の男がいた。男はおよそ半年ぶりに故郷の桐生(きりゅう)に帰り、家族と一緒に二十三夜の月待ちの宵を過ごす予定だった。
家で待つ子供のお土産に赤い風車買い、あと山一つ越えれば桐生という所までやって来た。
早く家族に会いたい一心で男は家路を急いだ。ところが山道のなかで日が暮れてしまい、辺りはすっかり真っ暗になってしまった。
するとどうしたことか、男が暗い夜の山道を歩いていると、後ろの方から何やら足音が聞こえてくる。 男が振り向くと、遠くの方で二つの巨大な目玉が不気味に光った。そしてどんどんどんどん男の方に向かって近づいてくる。
驚いた男は必死になって逃げるが、物凄い勢いで迫ってくる目玉についには追いつかれそうになってしまう。間一髪のところで男は二十三夜様の御堂を見つけ、何とかその中に逃げ込んだ。男が外を見れば、目玉の正体は巨大な化け猫だった。化け猫は屋根に上り、御堂を潰しにかかってきた。
男は生きた心地がせず、ただひたすら御堂の中で「二十三夜様、助けて下さい!」と祈った。すると急に御堂の上に二十三夜の月が上がり、目も眩まんばかりに輝いた。屋根に乗っかっていた化け猫は、この二十三夜の月の光を浴びると断末魔の悲鳴を上げて消えた。
こうして男は、無事に家路に着いて、家族と一緒に二十三夜の月待ちを過ごすことが出来た。そしてこれ以降、男は自分の命を救ってくれた二十三夜様にますます感謝の念を篤くして、二十三夜様のお祭りを欠かすことが無かったということだ。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | おのちゅうこう(未来社刊)より |
出典詳細 | 上州の民話 第一集(日本の民話20),小野忠孝,未来社,1959年06月30日,原題「化け猫と二十三夜さま」,採録地「桐生市」,話者「矢島胖」 |
場所について | 群馬県桐生市 |
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