昔、ある浜辺に貧しい漁師の夫婦が暮らしていた。亭主は欲のない性分だったが、女房は家が貧しいのは亭主のせいだと毎日こぼしていた。
ある日、亭主が釣り糸を垂れていると、今まで見たこともないような見事な鯛がかかった。喜んだ亭主だったが、突然その鯛が「海に帰してくれたら何でも言うことを聞くから」と言って泣きわめいた。亭主は鯛が可哀想になって、願い事もせずに鯛を放してやった。
このことを聞いた女房は、明日もう一度その鯛を釣りあげて、いい家を建ててもらうようお願いして来いと亭主に詰め寄った。しかたなく亭主が翌日海に行くと、昨日の鯛が顔を出したので、亭主は鯛に願い事を話した。そして亭主が家に帰ると、なんとも立派な屋敷が建っていた。
女房は気が狂わんばかりに喜んでいたが、女房はもっともっと立派な家を建ててもらうように頼んでこいと言い始めた。翌日、亭主はもう一度鯛にお願いして、御殿のような家を建てなおしてもらった。貧しかった夫婦は、鯛のおかげであっという間に大金持ちになった。
その日の昼下がり、夏も盛りだったので、毎日お天道さんがカッカと照りつけていた。女房は暑くてたまらなくなり、今度はお天道さんを自分の意のままに操れるようにしてもらいたいと言いだした。
流石にその願いは亭主も止めたが、怒鳴り散らす女房に押し切られ、またも鯛の元へと赴いた。この願いを聞いた鯛は、「もとん家はいれ、もとん家はいれ」と唱えると、海中に潜っていってしまった。亭主は鯛の言ったことが気になったが、その晩はいつの間にか寝入ってしまった。
翌日、亭主が目を覚ますと、あれほど立派だった家が一夜にして元のボロ家に戻っていた。女房は泣きわめいたが、亭主はきっと鯛が怒ったのだと言って女房を諭した。その後、亭主は何度か海へと足を運んだが、もう二度と鯛の姿を見ることはなかった。
(kokakutyou 投稿日時 2012-10-25 22:57)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 宮地武彦(未来社刊)より |
出典詳細 | 佐賀の民話 第一集(日本の民話60),宮地武彦,未来社,1976年06月30日,原題「鯛の恩返し」,採録地「東松浦郡鎮西町加唐島」,話者「西村ハル」 |
場所について | 佐賀の加唐島(地図は適当) |
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