昔々のある夏のこと、来る日も来る日も暑い日が続き、とうとう我慢ができなくなった津山の殿様は、吉井川の川原へお忍びで夕涼みに出かけた。そこに一面に咲いていた月見草を一目で気に入った殿様は、全て一夜で城に移し変えるよう家臣に命じた。
順繰りに上から下ってきたこの命を受けた平平左衛門(たいらひらざえもん)は、やむなく百姓町人をかり集め、一晩中かかって川原の全ての月見草を城内に移したが、その後には無惨に荒れ果てた川原が残った。
翌朝上機嫌で目覚めた殿様が庭を見ると、夜にしか花を咲かせない月見草は赤茶けてしぼんで見えた。腹を立てた殿様は花を捨てるように命じ、この命令もまた順送りに平左衛門のところにきて、平左衛門はせっかく運んだ月見草を川に投げ捨てるしかなかった。
幾日かが過ぎて相変わらず蒸し暑い日が続き、再び殿様を夕涼みに連れていくこととなったが、荒れ果てた川原につれて行く訳にもいかず、今度は平左衛門に適当な場所捜しが命じられた。平左衛門は足を棒にして捜し回った。しかし日暮れ時になってもそんな場所は見付からず、何時しか平左衛門は吉井川を遥かに下った八出(やいで)の方まで来てしまっていた。
そこで平左衛門が見たのは、なんと一面に川原を埋め尽くして咲き乱れる月見草だった。それは先日川に捨てられたものが流れ着き、根を下ろしたものだったのである。平左衛門は月見草に抱かれるように身を横たえ、一時心安らぐ思いに浸るのだった。それ以来、元の川原には一本の月見草も咲かなかったという…。
(引用:狢工房サイト)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 稲田浩二(未来社刊)より |
出典詳細 | 岡山の民話(日本の民話36),稲田浩二,未来社,1964年03月15日,原題「川を流れた月見草」,採録地「津山市」,話者「下山省三」 |
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場所について | 津山城近くの吉井川 |
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