昔、あるところに、自分が世界で一番強いと思っている蛙がいた。その蛙が自分の生まれた池や周りの岩山を眺めて、小さい世界だと馬鹿にしていると、頭上からトンボがやってきた。
このトンボは、蛙と同じ池で育った。オタマジャクシの頃の蛙は弱虫で、よく周りの生き物にいじめられていたのを、ヤゴだった自分がしょっちゅう助けてやっていたのだ。オタマジャクシの頃の蛙を知るトンボは、偉そうにしている蛙をからかう。
二匹が言い争っていたところ、そこに突然鳥もちを付けた竿が下りてきて、あっという間にトンボは捕まえられてしまった。鳥もちに捕えられてはトンボは手も足も出ない。それを見た蛙は、やはり自分が世界一だと高笑い。しかしふんぞり返っていた蛙は、一瞬で何かに飲み込まれてしまった。
蛇だ。蛙を一飲みにした蛇の腹の中で必死に暴れるが、蛙はあえなく溶かされてしまった。
世界一だと豪語していた蛙を飲み込んで自分こそ世界一と蛇が得意になって、岩山の上でのんびりしていると、何と蛇の尻尾が溶けているではないか。
ナメクジがやってきて蛇の体を溶かし始めていたのだ。蛇が逃げる間もなく、あっという間に蛇を溶かして岩山の頂上に来たナメクジは、「空が飛べてもトンボは鳥もちに負けて、蛙は蛇に飲まれて負けて、その蛇は自分に体を溶かされて負ける」蛙よりもトンボよりも蛇よりも自分が強い、世界一だと得意になって周囲の岩山や松の景色を独り占めにし、絶景だ、絶景だと見渡していた。
ところがそこに突如雪が降ってきた。風流だと思っていたナメクジだが、雪が体に当たるとナメクジの体が溶けてしまった。雪だと思ったのは、何と人間が上から撒いていた塩だったのである。そして蛙やナメクジが小さい世界だ、絶景だと言っていた周囲は、人間の庭の盆栽だったんだとさ。
(投稿者:すず猫 投稿日時 2014/3/11 13:59)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 高橋在久(未来社刊)より |
出典詳細 | 房総の民話(日本の民話26),高橋在久,未来社,1960年05月15日,原題「塩には負けた世界一」,採録地「市原郡」,原話「市原郡誌」 |
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