昔、「影ワニ」がでるから凪(なぎ)の海に漁に出てはならない掟がある漁村があった。
その掟が不満だった若い漁師ごんぞうは、せっかく天気も良く漁が出来る日にそんな掟を守るなど馬鹿げていると、村長が止めるのも聞かずに凪の海に漁に出る。
ごんぞうが漁をはじめると何事もなく漁は出来て、しかも大漁であった。迷信であったと確信したごんぞうは、岸から心配そうに見守る仲間に自慢ができると大はしゃぎで漁を続けた。
ところが、日が少し傾き、海面にうつる自分の影が大きくうつる頃になって、ごんぞうの体に痛みが走り服が裂けた。海面を見ると、巨大な魚の影が自分の影を啄むように食べている。影ワニが現れたのだった。
食べられるごとにごんぞうの服は裂け、体は傷つき血が流れた。どこから現れるか分からない影ワニとの戦いに恐怖と苦痛に体力も限界になるごんぞう。ぼんやりとする意識の中、浜を出る時に村長が言った言葉を思い出した。「影ワニが出たら、海面にうつる影を隠せ」
ごんぞうは船の下に敷いてあったゴザを海面になげいれて自分の影を消すと、ようやく影ワニは諦めて姿を消した。ごんぞうは、どうにか助かることができたのだ。しかし、影が消えてしまう夜になるまで船に伏していなければならず、岸に帰ることができなかった。
その後村の漁師の誰もが「凪の海に漁にでてはならない」という掟を守るようになった。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-6-2 2:36 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 大庭良美(未来社刊)より |
出典詳細 | 石見の民話 第一集(日本の民話67),大庭良美,未来社,1978年07月31日,原題「影ワニ」,原話「温泉津町の伝説」 |
場所について | 温泉津日祖のアバヤ沖(地図は適当) |
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