むかしむかし、ある所に貧しい若者がおって、おっとうと二人で小さな畑で蕎麦を育てたり、焙烙(ほうろく)を焼いて売ったりして暮らしておった。おっとうは達者じゃったが、最近、少しばかり耄碌(もうろく)してきておったそうな。
ある年の秋、村は激しい嵐にみまわれ、若者の蕎麦畑はすっかり荒らされてしもうた。このままでは冬を越せないので、若者は焙烙をたくさん焼いて、山向こうの 海辺の町まで売りに行くことにした。土をこねてろくろを回し、若者とおっとうは何日もかかって焙烙を作った。そうして、窯詰めが終わると、若者はおっとう に明日履く草鞋(わらじ)を作るように頼み、自分は一晩かかって焙烙を焼き上げた。
翌朝、若者はおっとうが作った草鞋を受け取った。じゃ がそれは、長い毛があちこちからはみ出したままの、出来損ないの草鞋じゃった。「おっとう、草鞋も満足に作れんほどボケちまったんか……。」若者は哀しい 気分になったが、微笑むおっとうを見ると気を取り直し、「おっとう、ありがとう。行ってくるよ!」と、元気に家を出発した。
若者はおっと うの作ってくれた草鞋を履き、重い焙烙を担いで山道を登っていった。やがて、ようやく目指す海辺の町が見えてきた。と、その時、若者は草履の長い毛を踏 み、あっという間もなく転んでしもうた。ガシャーン!!!苦労して焼き上げた焙烙は、一つ残らず割れて散らばった。
若者は呆然と割れた焙 烙を眺めておったが、やがて頭を抱えて座り込んだ。しばらくして若者がふと顔を上げると、たくさんの鳶が飛んでおった。鳶は次々と舞い降りてきて、焙烙の 欠片を摘んでは一箇所に集め始めた。やがて、いつの間にか鳶の姿は消え、目の前に焙烙の欠片が積み上げられておった。若者がそれを取り分けてみると、中か ら金銀小判がざくざくと出てきたそうな。
若者はその金を元手に働いて、やがて『鳶の長者』と呼ばれる大金持ちになり、おっとうと二人幸せに暮らしたそうな。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-1-3 14:49)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 武田明(未来社刊)より |
出典詳細 | 讃岐の民話(日本の民話05),武田明,未来社,1958年01月31日,原題「鳶の長者」,採録地「香川県丸亀市広島町」,西讃岐昔話集より |
場所について | 塩飽諸島のいずれかの島 |
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