昔、安宅(あたか)のある家に嫁いで来た嫁がいた。
この嫁、フタを開けてみれば大変な怠け者で、家族の飯も作らず朝寝坊をする。仕方なく姑(しゅうとめ)が飯を炊けば、後から起きて来て婿の分まで朝飯をたいらげてしまう。そんな訳で、婿は朝飯抜きで野良仕事をしなければならなかった。
さらに、掃除、洗濯、後片付けは大嫌いで、仕事もせずに昼寝ばかりしている。おまけに飯炊きの番をさせれば、これまた竈(かまど)の前で居眠りをしてしまい、ご飯は真っ黒焦げ。仕方なく、晩飯はこの真っ黒なご飯を三人で食べることになった。
こんなことが何日か続いたものだから、部屋は散らかり放題、風呂場には洗濯物が山と積まれ、釜には煤(すす)が五寸も積もっている。これを見て、とうとう堪忍袋の緒が切れた姑は、釜をきれいに洗って来るように言いつけ、嫁を家から追い出してしまった。
さて、家から追い出された嫁は、渋々汚れた釜を持って河辺に来たものの、姑に怒られたことなどお構いなしに、ポカポカとした陽気に誘われて、また川辺で昼寝を始める始末。なかなか煤を洗ってもらえない釜は、とうとう自分で煤を落とそうと川に転げ落ちてしまった。
するとどうしたことか、川の中から竜巻が起こり、中から真っ黒な大きな怪物が現れた。それは釜の神様、「釜妖神」と名乗り、嫁を踏みつけると、早く釜を洗うように命じた。嫁は慌てて一所懸命に釜を洗う。こうして釜を洗い終わると、嫁はいつの間にか元の川辺にいた。
そこへ姑が嫁を迎えにやって来た。姑はニコニコしながら、きれいに釜を洗った嫁を褒める。訳がわからず家に帰ると、かまどにはきれいな釜がある。やはり、あの出来事は夢ではなかったのだ。このことがあってから、嫁は心を入れ替え、働き者になったので、家もだんだんと栄えるようになったと言うことだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2013-2-4 16:39)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 清酒時男(未来社刊)より |
出典詳細 | 加賀・能登の民話 第一集(日本の民話21),清酒時男,未来社,1959年08月31日,原題「釜妖神」,能美郡誌より |
場所について | 小松市安宅町(地図は適当) |
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