昔ある山道は「化け物が出る」という噂があって「幽霊街道」と呼ばれていた。ある日近くの村の若い衆がその噂が本当かどうか確かめに、夜その幽霊街道に行ってみた。 街道に着いて夜になり、若い衆は眠ってしまったが、藤十郎という男だけは岩の上に座って考え事をしていた。
藤十郎は家を出る時仏様に供えてある「おぶくさん」という御飯を食べて来た。おぶくさんを食べるとどんなことがあっても嫁の元に帰って来れると昔から言われていた。その時突然、辺りの様子が変わった。藤十郎が見上げると、目の前に得体の知れないものが 「藤十郎はおぶくさんを食っとる、捕らまえるのに骨が折れる」と言って近付いて来た。藤十郎が驚くと突然宙に舞い上げられ、地面に叩きつけられた。そして持っていた山刀は溶かされてしまった。
その時若い衆が「藤十郎、何をしとる?」と声をかけてきた。藤十郎は我に返り、この峠にはやはり魔物がいるからすぐ帰った方がいいと言ったが、若い衆は何も見ていない内は帰れないと言って聞かなかった。藤十郎は溶けた刀を見せ必死に説得した。
とその時、藤十郎の猟犬のシロが吠え始めた。藤十郎がそっと覗いてみると、そこにはさっきの化け物が恐ろしい目を光らせてこちらをにらんでいた。若い衆は腰が抜けて動けなくなってしまったが、藤十郎とシロは化け物に吸込まれてしまった。藤十郎を飲込んだ化け物は満足気に去っていった。
若い衆は恐ろしくてその場から走り逃げた。そして藤十郎の家の前まで着いて、嫁さんにさっきのことを話そうとした。だがその時、藤十郎とシロが家に戻ってきた。若い衆はまた驚いて家から飛び出してしまった。 藤十郎もシロも、おぶくさんを食べていたので戻って来れたのだった。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 江馬三枝子(未来社刊)より |
出典詳細 | 飛騨の民話(日本の民話15),江馬三枝子,未来社,1958年12月20日,原題「幽霊街道」,採集者「代情通蔵」 |
場所について | 藤十郎が住む新張(地図は適当) |
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