むかしむかし、ある寺に和尚さんと小僧さんが住んでいました。和尚さんは酒好きで、寒い夜には「腹の底から温まるわい。」と言いながら晩酌をしておりました。
酒が足りない時には、雪の中、酒屋まで酒を買いに行かされる小僧さんは、飲むと体がぽかぽか温まるというお酒を飲みたいと思うようになっていました。
ところが、小僧さんがどんなに頼んでも和尚さんはお酒を飲ませてくれません。ただ、和尚さんは、冗談半分に「もし、わし一人で一斗(=10升)の酒を飲まねばならんことになったら、お前にも手伝ってもらうかのう。」と言うたそうです。その日から、小僧さんは、どうしたら和尚さんに一斗の酒を買わせることができるかを考えるようになりました。
そんなある夜、寺にお客さんがやって来ました。お客さんの話相手をしているうち晩酌の時刻になったので、和尚さんは小声で小僧さんに酒を買ってくるように言いました。ところが、小僧さんは大声で「酒はどれくらい買うのですか?」と聞き返したからたまりません。
お客さんの前で恥をかいてしまった和尚さんは、今後こういうことがないように、小僧さんと「指一本出したら一升の酒を買う」という合図を決めておくことにしました。
それからしばらくした寒い日、小僧さんは寺の池の厚い氷を割り、その上に雪をかけて割れている部分を隠しておいて、和尚さんを呼びました。そうして、言葉巧みに和尚さんを氷の上に誘ったのです。まんまと騙された和尚さんは、割れた氷の上に乗って、池の中に落ちてしまいました。
慌てた和尚さんは、引っ張り上げてもらおうと小僧さんの方に両手を伸ばして「早く!手じゃ!」と叫びました。すると小僧さんは和尚さんをほったらかして酒を買いに行き、一斗もの酒を買ってきたのでした。
和尚さんが理由を聞くと、小僧さんは「和尚さんが指を十本出して早くしろと言うたから、急いで一斗の酒を買ってきました。」と言うたそうです。
(投稿者:ニャコディ 投稿日時 2014/8/29 11:26)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 山田野理夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 宮城の民話(日本の民話24),山田野理夫,未来社,1959年12月31日,原題「酒買い小僧」,原話「山田はる」 |
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