むかしあるところに、若い夫婦が住んでおって、この家には貧乏神が住み着いておったそうな。そうして、ここの女房は不精者の上に、食べ物をねだりに来る貧乏神を「やかましい!この居候!」と怒鳴り、座板を素手で剥がして火にくべるという、そりゃあ、ものすごい女房じゃった。
ある年の晩、夫婦はなんとか大火を焚いて年を越そうとしておった。すると、貧乏神が婿さんに擦り寄り「あの女房と一緒にいたらいつまでも貧乏から抜け出せんぞ。女房を里に返すんじゃ。そうすりゃ、大金を得られる方法を教えてやる。」とそそのかし始めた。
すると、それを聞きつけた女房が怒って、貧乏神を張り飛ばした。そのはずみに囲炉裏の火が消えてしもうたんじゃと。そうして、女房の姿も急に消えてしもうたそうな。
「年の晩に囲炉裏の火を絶やすとばちがあたる。ワシがばちをあててやったんじゃあ。」と貧乏神は笑った。そうして婿さんは、貧乏神から先ほどの「大金を得られる方法」を聞き出したのじゃ。
それは、年の晩に通る大名行列は人間に見えるが人間ではない、全部銭の行列じゃというものじゃった。二人が家の外に出ると、やがて大名行列が暗い夜道をこちらへ近づいてきたそうな。
貧乏神が先触れの侍を殴りつけると、ドシャーッと小銭が溢れ出した。今度は婿さんが、籠の中の殿様を殴りつけると、こちらからもザラザラと小判が溢れ出した。居候の貧乏神が言った通り、あの女房が消えたとたん、婿さんは大金持ちになったのじゃった。喜んだ婿さんと貧乏神は、酒を飲み、歌って踊って祝った。
と、突然家の扉が開き、女房が戻ってきた。「お前、どこに行っておったんじゃ……?」と婿さんが聞くと、女房は「年の晩じゃ、大火を焚くために隣に火種を貰いに行っとったんじゃあ!」と答えたんじゃと。
せっかくの大金もいずれこの恐ろしい女房に握られてしまうに違いない……。
そう思うと婿さんと貧乏神は力が抜けて抜けて、立てんかったそうな。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-9-29 21:25)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 武田明(未来社刊)より |
出典詳細 | 讃岐の民話(日本の民話05),武田明,未来社,1958年01月31日,原題「年の晩としゃぐまのじいさん」,採録地「志々島」,佐柳志々島昔話集より |
場所について | 志々島 |
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