むかしむかし、ある所に爺さんが住んでおった。ある年のこと、爺さんは家と畑を大水で流されて、何もかも無くしてしもうたそうな。それから爺さんは、毎日村の家々を回って鍋を借り、鍋にこびりついた米粒を擦り取って喰うようになった。
じゃがある時、村人達に鍋についた米粒を食べているのを知られてしまい、それからは誰も爺さんに鍋を貸してくれんようになった。爺さんは仕方なく、木枯らしの吹く冬の山に食べ物を探しに出かけたが、とうとう空腹と寒さで大きな木の下に倒れてしもうた。
すると北の暗闇からごそんごそんと一匹の狼が現れた。爺さんは驚いたが、狼はそのまま去って行った。すると、今度は東から別の狼が現れ、また通り過ぎて行った。最後に西から、今までよりもずっと大きな青白い狼が真っすぐ爺さんの方にやって来て、爺さんの前でピタリと止まった。
爺さんは狼に喰われる覚悟を決めたが、狼はじいっと爺さんを見つめるばかり。やがて狼の眉毛が光り始め、その中の一本が抜け落ちた。狼は「爺様、その眉毛で村人を透かして見てみろ、きっと良いことがある。じゃが、誰にも眉毛をやっちゃいけんで。」と言って去って行った。
朝になると早速、爺さんは狼の眉毛をもって村に降りた。そうして、爺さんは田起こしをしている村人を狼の眉毛で透かして見た。猿、豚、狐、犬…、驚いたことに狼の眉毛で透かして見ると、村人達が色々な動物の姿に見えた。
するとそこに村の庄屋がやって来た。庄屋は爺さんに眉毛を借り、村人達や爺さんを透かして見た。そうして自分の姿も爺さんに透かして見てもろうた。じゃが、やっぱり村人達は色々な動物に、庄屋は大きな鳥に見え、爺さんだけが人間のままの姿に見えたそうな。
庄屋は、これはきっと爺さんに山の神様が憑いたに違いない、大事にせねば大変な事になると思い、爺さんを自分の家に連れて行った。それから爺さんは、村の守り神として庄屋の家で大切にされ、もうひもじい目にあうことはなかったそうじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-5-26 21:58 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 山本玲子「広島県の民話」(偕成社刊)より |
出典詳細 | 広島県の民話(ふるさとの民話),日本児童文学者協会,偕成社,1979年6月,原題「オオカミ長者」,採録地「双三郡」,再話「山本玲子」 |
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