むかし、ある村に仲の良い双子の兄弟がおった。二人はいつも一緒で、兄は弟を『おい』と呼び、弟は兄を『やい』と呼んでおった。
ところがある時、兄の『やい』が病気になった。弟の『おい』が必死に神様に祈ると、神様が現れて「お前に覚悟があるのなら兄の命を助けてやろう。」と言うたそうな。『おい』が神様に言われたとおり家の外に出て手を三回叩くと、天から梯子が降りて来た。
恐ろしさを堪えて『おい』が梯子を登ると、梯子は雲を突き抜けて、ぽかっと広い部屋にでた。部屋の隅には入口らしい扉が見え、その前に赤鬼が一匹いびきをかいて寝ておった。『おい』は恐る恐る扉に近付き、赤鬼のいびきに合わせてそろりと扉を開けた。
次の扉の前には、また鬼がおったが、その鬼は立ったまま目を開けて眠っておったので、『おい』はそっと次の部屋の扉を開けた。そこは暗い果てもない部屋で、数限りないロウソクが赤々と灯っておった。
よく見るとロウソク一本一本にことごとく人の名前が書かれておる。「これは寿命のロウソクじゃ!消える時は人間が死ぬ時に違いない!」と『おい』はうろたえ、無数のロウソクの中から兄のロウソクを探しまわった。やっとの思いで見つけた兄のロウソクは、横ざまに倒れており、今にも消えそうに瞬いておった。
『おい』は焦る気持ちと震える手を抑えつけて、そっと兄のロウソクを立てなおした。「消えるな、やい、生きるんだ。」と、『おい』が呼ぶと、兄のロウソクは大きく瞬きそれから赤く大きく燃え始めた。『おい』は涙を流して兄の名を何度も何度も呼んだ。
「ああ、腹が減った。」と、兄の『やい』が布団から起き上がった。いつの間にか、弟の『おい』は元の家に戻っておった。『おい』は元気になった兄を見て、泣きながら兄のために飯を炊き始めたそうな。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-9-15 16:14 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 松谷みよ子(講談社刊)より |
出典詳細 | 日本の昔ばなし01,松谷みよ子,講談社,1977年12月15日,原題「寿命のロウソク」 |
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