下前津と鶴舞をつなぐ宇津木坂を東に下った辺りに小さな村があった。村の道にはそれほど大きくは無い川が流れ、橋がかかっていたが、それは木の橋だった。
木の橋は弱く、大雨が降ると増水した川の流れに押し流され、その都度作り治さねばならない。村人は橋の作り替えにいつも難儀していた。
さて、この橋の近くに円右衛門(えんえもん)と言う年老いた百姓が住んでいたが、この村人の難儀を見かね、自分の家の傍にある大岩を1年がかりで削って、3枚の大きな石の板をこしらえ、村人の協力を得てこれで橋をかけた。石の橋はどんな大水が来ても流される事は無かった。
村の人々は円右衛門への感謝の意をこめてこの橋に「円右衛門橋―エンネ橋」と名づけた。
橋が出来てから数年後、円右衛門は亡くなった。それと同時に、雨が降る日になるとエンネ橋に火の玉が出ると言う噂が立った。村の若者達が噂を確かめよう、と夏の夜に橋の傍で待ちかまえて居ると、急に雨が降り出し、雨が降ると同時に火の玉が出た。
その火の玉はまるで大水に耐える橋を見守っているかのように見えた。はっとした村人が火の玉の後を追うと、火の玉は寺の墓所に飛んで行き、円右衛門の墓の前ですっと消えた。
「円右衛門の魂が橋を心配しているのに違いない」と思った村人達は、それからは交代で橋の見回りを行い、橋を大事に扱った。円右衛門の霊も安心したのか、その後、火の玉は出なくなった。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2012-11-5 18:34 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 愛知県 |
場所について | 地図は適当、この辺にエンネ橋がある。(詳細情報求む) |
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