昔々、広島県山県(やまがた)郡の小さな村に、働き者の嫁さんと、村一番ぐうたらな婿さんの夫婦が住んでおった。夫婦はたいそう仲が良かったそうじゃ。
ある日、婿さんが庭で日向ぼっこをしていると、スズメが婿さんの鼻先に降りてきて、「加計(かけ)の寺尾の岩山で、金やら銀やら出るそうな、ちゅんちゅん♪」と、鳴いたそうな。
目を覚ました婿さんは、早速加計の岩山に出かけることにした。嫁さんは呆れながらも、弁当等を持たせて婿さんを送りだしたそうな。
婿さんは一日がかりで加計の寺尾の岩山にたどり着いた。そうして婿さんは毎日毎日岩山を掘り返して、とうとう本当に洞窟の中で金鉱を掘り当てたそうじゃ。じゃが、あまりにたくさんの金だったので、婿さんは一度家に戻って、嫁さんを呼び、金を運ぶ道具を持ってくることにした。
岩山を離れる前に、婿さんは金が誰にも見つからないように、近くから麦わらを持ってきて大きな蛇の形にして洞窟の入り口をふさいだそうじゃ。ところが婿さんが家に戻って金の話をしても、嫁さんは稲刈りの準備があるからと言って運ぶのを手伝ってくれんかったそうじゃ。
仕方なく婿さんは一人で岩山に戻って行った。ところが岩山に戻ってみると、麦わらの大蛇がなんと本物の大蛇に変わっておった。大蛇に散々に追いかけられて、婿さんは一欠片の金も持たずに逃げ出した。そうして何とか村の近くの峠まで逃げてきて、そこで初めて婿さんは眼下一面に広がる田んぼを見たそうじゃ。
婿さんが見たものは、見事に実った稲が夕日に輝き、風に揺れて黄金の波をうっている景色じゃった。その見事さに婿さんはもう夢中になってしもうた。「これこそ、本当の黄金じゃ!」と婿さんは喜んで家に戻っていった。
金や銀はとうとう手に入らなんだが、それよりずうっとええもんを見つけた婿さんは、それからというもの仕事に精を出し、嫁さんと一緒にいつまでも幸せに暮らしたということじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2014-1-4 18:07 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 土橋かよ子「広島県の民話」(偕成社刊)より |
出典詳細 | 広島県の民話(ふるさとの民話),日本児童文学者協会,偕成社,1979年6月,原題「麦わら大蛇」,採録地「山県郡」,再話「土橋かよ子」 |
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