昔、ある所に長者と貧乏人が、垣根を挟んで隣り合わせに住んでいました。長者はとても欲深で、いつも隣の貧乏人を見下していました。
貧乏人の家には、大きな桜の木があって、毎年見事な桜の花を咲かせました。貧乏人は毎年この桜の下で酒を飲むことが、唯一の楽しみでした。
ある時、この大切な桜の木が長者の家の方に傾き始め、とうとう完全に曲がってしまいました。長者が桜の木に縄をつけて、少しずつ自分の家の方に引っ張っていたのです。
そうして春になると、曲がった桜の木には見事な花が咲きました。長者は、大勢の花見客を自分の庭に招き、花見料金をとって金儲けをしました。貧乏人は、自分の家の桜を使って金儲けをしている事が許せませんでした。
貧乏人が長者に文句を言うと、長者は「垣根から超えたものは自分のものだ」といって、反省するどころか貧乏人を言いくるめました。
腹を立てた貧乏人は、何もない自分の家の庭で、チンドンチンドンお囃子(はやし)をたてました。すると、貧乏人の楽しそうな様子が気になった長者は、垣根に首を突っ込んで隣の様子をのぞき見ました。
垣根から顔を出すのを待ち構えていた貧乏人が、すばやく長者の鼻を挟んで、思いっきりねじりあげました。長者の鼻は赤くはれ上がり、完全に曲がってしまいました。
その後、長者は桜の木を押し戻しました。桜の木が元のようにまっすぐになった頃、長者の鼻も元のように戻ったそうです。
(紅子 2013-10-14 17:25)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 浜口一夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 佐渡の民話 第一集(日本の民話18),浜口一夫,未来社,1959年04月30日,原題「堀ごしの花と鼻」,採録地「両津市水津」,話者「桜井直次」,採録地「相川町高千」,話者「小杉リヤ」 |
場所について | 相川町高千(現在の佐渡市高千、地図は適当) |
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