昔、静岡に一人の馬方が住んでいた。この馬方は年老いた馬「アオ」をとても大切にしていた。ある夜の事、一人の六部が一夜の宿を求め、馬方は快く承知した。そして寝静まった真夜中の事、六部は布団の中で考えた。
「毎晩、布団にくるまって眠る事が出来たらどんなに良いじゃろう・・・」これから先、快く宿を貸してくれる家に巡り会えるとは思えない。いや、この家で最後かもしれない。ならば布団だけでもこっそり持って行こう。六部は布団を担いでこっそりと家を出ようとした。
すると何かが荷物を引っ張っている。振り返ると馬のアオが布団を咥えて六部を引き留めていた。アオは口を開くと驚く六部に向かってしゃべり始めた。
「オラはここの主人にずいぶん可愛がってもらった。でもオラはすっかり年をとっちまった、もう働く事は出来ない。死んだら極楽往生したいと思っておったがお経を読んでもらわなきゃ極楽には行けない。そこに六部のおまえ様がやって来た。そうだ六部のおまえ様にお経を読んでもらおう。そう思ってオラは今夜死ぬ事に決めた。どうか朝になったらお経を読んで下せえ・・・」
翌朝、すっかり反省した六部は涙ながらに昨晩の事を詫びたが、馬方は「まさか馬がしゃべるなんて」と笑って信じなかった。馬小屋に行き、馬方が声をかけたが反応が無い。馬方は驚いて大声で叫んだ。アオは眠るように死んでいたのだ。
二人はアオのお墓を作り、六部は願い通りにお経を読んで極楽に行けるように祈った。
馬でさえも信心深い心を持つ事がある。それはひとえに馬方が大切に育てたからだと人々は感心し、六部も心を入れ替えて旅を続けたという。
(投稿者: ゲスト 投稿日時 2012-5-5 16:20 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 静岡県の民話(偕成社刊)より |
出典詳細 | 静岡県の民話(ふるさとの民話9),日本児童文学者協会,偕成社,1978年11月,原題「馬のねがい」,採録地「榛原郡」,再話「久保律二」 |
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