昔、琵琶湖のほとりの堅田(かたた)に源五郎という名の男がいた。
ある日、源五郎が湖のほとりを歩いていると、岸辺にひどい怪我をしたフナを見つけた。源五郎は漁師だったが、このフナを取らず傷口に油薬を塗って逃がしてやった。
さて、次の日も源五郎がブラブラしていると、昨日フナを助けた辺りに見慣れない若い女が背中から血を流して倒れていた。源五郎は慌ててこの娘を家に背負って帰り、介抱してあげた。
やがて娘の傷も癒え元気を取り戻すと、娘は自分を嫁にしてほしいと源五郎に言った。独り者の源五郎、きれいな嫁さんがもらえて嫌と言うはずがない。ただ、娘は自分が湯浴みをしているところを決して見ないよう源五郎に約束させた。
それからの源五郎は、見違えるようによく働くようになり、また二人は傍目もうらやむほど仲良く暮らした。こうして瞬く間に数年の歳月が過ぎていった。
そんなある日、今日は珍しく朝から大漁で、源五郎はいつもより早く家に帰った。すると嫁の姿が見当たらない。嫁は裏で湯浴みをしていたのだ。これまで約束を守って一度も嫁の湯浴みを見たことがなかった源五郎だったが、この時は魔が差したのだろうか。もう何年も一緒に暮らしているので大丈夫だろうと思い、そっと湯船を覗いて見た。するとそこに嫁の姿はなく、何と大きなフナがゆっくりと泳いでいたのだ。
正体を見られてしまった嫁は、源五郎に別れを告げると琵琶湖に姿を消してしまう。「まってくれー!!ワシが悪かった!!」源五郎は慌てて嫁の後を追い、琵琶湖に舟を出した。すると沖合に出たころ、源五郎は嫁だったフナの姿を水中に見た。源五郎はその瞬間、何もかも忘れて水の中に飛び込んだ。そして嫁を追って泳いでいると、いつの間にか源五郎自身もフナになっていたということだ。
琵琶湖に住むフナのなかで、その体が少し大きいゲンゴロウブナにはこんな謂れがあるそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-5-15 9:27)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 近江の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 近江の伝説(日本の伝説19),中川正文,角川書店,1977年6年10日,原題「鮒女房」源五郎鮒 |
場所について | 滋賀県大津市堅田(地図は適当) |
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