昔、江戸の小石川の喜運寺の近くに豆腐屋があった。この豆腐屋は大変繁盛しておったが、ある時豆腐屋のだんなはもっと金もうけをしようと考えるようになった。
おっかあ(妻)には内緒で悪い豆を使ったり、豆腐を少し小さめに切って売るようになった。それでも客はそれに気づかず、店は相変わらず繁盛し、豆腐屋はもうかっておった。
ある日、だんなが出かけていてそろそろ店を閉めようと思っていた夕方に、一人の見知らぬ小坊主さんが豆腐を一丁買いに来た。息子が応対するが、二分金という大金を渡してどこへともなく消えて行った。
その夜、だんながその日の売り上げを勘定していると、1枚の木の葉が紛れていた。息子から不思議な小坊主の話を聞いただんなは、小坊主の正体はキツネに違いないと確信した。
次の日も夕方になって、あの小坊主がやって来た。また豆腐を一丁買って、二分金を払っていった。だんなは豆腐包丁を手にして、小坊主の後を追った。喜運寺の前で小坊主に追いついただんなは、豆腐包丁で小坊主を斬りつけた。しかし小坊主は消え、豆腐包丁は刃こぼれしてしまった。
だんなは粉々になった豆腐の後を追って、小坊主を探した。それは墓地へと続いており、奥の古い地蔵堂の所で途絶えていた。だんなが地蔵堂の中に入ってみると、肩に刃こぼれした割れた自分の豆腐包丁がささっているお地蔵様があった。
だんなは、お地蔵さんが戒めてくれたんだと悟り、お地蔵さんに心から謝った。その後豆腐屋の一家は、地蔵堂を建て直し、再び悪い豆を使ったり、豆腐を小さく切って売るようなことはなかった。その後この豆腐屋は以前にもまして繁盛していった。
このお地蔵さんは「とうふ地蔵」と呼ばれるようになり、お地蔵さんに豆腐をお供えすると、どんな願いでも聞いてくれると、江戸中の評判になったということである。
(投稿者: カケス 投稿日時 2013-11-3 21:29 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 柴野民三(偕成社刊)より |
出典詳細 | 東京都の民話(ふるさとの民話18),日本児童文学者協会,偕成社,1980年4月,原題「とうふ地蔵」,採録地「文京区」,再話「柴野民三」 |
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場所について | 喜運寺(豆腐地蔵) |
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