昔、ある村にたいそう漬け物を漬けるのが上手な婆さまが住んでいた。
この婆さま、爺さまと死に別れて一人暮らしだったが、人の助けを借りるのが嫌いで、婆さまの野良仕事を手伝おうものなら、婆さまは一人でやると言って聞かなかった。
そんな頑固者の婆さまであったが、おいしいと評判の漬物は村人に惜しげもなく分ける与える気立ての良さもあり、村人からたいそう親しまれていた。
そんなある夏の日、婆さまが畑で白瓜の収穫をしていると、どこからともなく不気味な出で立ちの男が現れた。男は鐘を叩きながら「極楽往生、極楽往生・・・」と呟くと、フッと煙のように姿を消してしまった。
すると、婆さまは突然その場に倒れ、そのまま息を引き取ってしまったのだ。婆さまは生前から村人に親しまれていたので、葬式にも多くの人が集まり、その死を惜しんだ。
ところが何としたことか、葬式の最中、棺桶から婆さまの声が聞こえたかと思うと、婆さまが棺桶から這い出してきたのだ。鬼が憑いたと思い、ほうきで婆さまを叩く村人だったが、間違いなく婆さまで、婆さまは生き返ったのだ。
そこで、どうして生き返ったのかと村人は婆さまに尋ねた。婆さまの話はこうだった。五色の雲に乗って極楽の入り口まで来たのだが、極楽へ通じる橋を渡っている途中で、何か忘れ物をしたような、腑に落ちない気分になった。こうなると頑固者の婆さまのこと、是が非でも思い出さないと気が済まない。橋の中ほどで立ち止まって考えていると、まだ白瓜を漬けていない事を思い出し、急いで下界に下りて来たのだと言う。
これを聞いた村の者たちは、呆れるやら感心するやらで言葉が出なかったそうだ。この婆さま、その後七年余りも生きたが、今度こそ本当に亡くなったしまった。その時に村人は、婆さまは今度こそ極楽に通じる橋を渡ってしまったのだろうと噂したそうな。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-6-13 12:01)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 岸なみ(未来社刊)より |
出典詳細 | 伊豆の民話(日本の民話04),岸なみ,未来社,1957年11月25日,原題「極楽もどり」,採録地「棚場」 |
場所について | 棚場(地図は適当) |
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