昔、日向から修業に出た旅人が、伊勢の安濃(現在の三重県津市安濃町)を通りかかった時の事。
旅人は少し休もうと長源寺(ちょうげんじ)の境内に入り、本堂で与兵衛という村の者と出会う。二人はしばらく四方山話をしていたが、やがてどちらともなく居眠りを始めた。
すると、あまりの気持ち良さに二人の魂までもがふわふわと飛び出して遊ぶようになった。ところが与兵衛の隣に住む源次が本堂で寝ている与兵衛を見つけ急に起こしたため、慌てた二人の魂があべこべに入ってしまう。魂が入れ替わったまま目覚めた二人は、与兵衛が旅人の杖をついて旅人が与兵衛の鍬を持って歩き出した。
しかし二人は魂が入れ替わった事を知らないので、村人が声をかけても与兵衛は知らん顔で街道を歩き続け、旅人は与兵衛の家に上がり込み夕飯の催促をする始末である。知らない男が亭主と言い張るのを見て与兵衛の女房は訳が分からず、隣の源次の家に駆け込んだ。
話を聞いた源次は早速与兵衛を探そうと、村人達に呼びかけ村中総出で街道沿いを探し回った所、運良く隣村の吾作の家に泊まっていた与兵衛を見つける。そしてやはり与兵衛も、自分は旅の者であり人違いだと言うのであった。
どうやら昼寝の間に二人がおかしくなったという事で、次の日村人達は二人をまた長源寺の本堂に座らせて昼寝させようとした。初めは不満そうだった二人も涼しい風に誘われるうち段々と昨日のように眠り出し、再び目覚めると二人の魂は元の身体に戻っていた。
こうして今までの話を知った二人は、この不思議な出来事はきっと本堂の十一面観音様が起こした奇跡に違いないと思い、十一面観音様に手を合わせた。後に人々はこの話を「伊勢や日向の物語」と言い、今も長源寺に語り伝えられているという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2012-10-23 16:29 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 内海康子(偕成社刊)より |
出典詳細 | 三重県の民話(ふるさとの民話30),日本児童文学者協会,偕成社,1982年2月,原題「たましいのいれかえ」,採録地「安濃町」,再話「内海康子」 |
場所について | 長源寺(ちょうげんじ) |
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