昔宮島の山に兵衛丸(ひょうえまる)と巴御前(ともえごぜ)という大変力持ちの夫婦がいた。 この世で自分たちより強いものはいないと思っていた夫婦の所には、しょっちゅう力比べに来る猛者が大勢いた。
オソラカンという中国から来たらしい男は、兵衛丸の留守中に巴御前から 怪力っぷりを見せ付けられて這う這うの体で逃げ出し、その途中の山で兵衛丸に見つかって三筋の矢を三筋の弓で引き絞って射られて、恐れをなして逃げ出した。これらの矢は山頂の岩を突き抜け、この山をオソラカン山という。
そのオソラカン山の麓に寺があり、その寺の和尚さんが高野に修行に行くので寺の留守番をすることになった夫婦。留守番の間にも猛者が来る。カクタンという大男がやって来て、やっぱり怪力に恐れをなして逃げ出したが、帰ってきた坊さんにその話をした夫婦だが呆れられてちっとも感心してくれない。
そんな二人に、坊さんは自分を寝室まで運んでくれるように頼んだ。兵衛丸が軽々しく持ち上げようとしたが、坊さんは床から動かない。渾身の力を込めても、巴御前と二人がかりでも坊さんは動かない。結局持ち上げられないまま、二人はへたり込んでしまった。
翌日、高野の土産をもらって山を降りた夫婦だが、その途中の道で炎を吐く大蛇を松の木と思って持ち上げて襲われてしまった。命からがら逃げ帰った夫婦は七日七晩大熱出して寝込み、やっと熱が引いた朝に、二人して「もう暴れくたびれた。この世で一番力の弱いものになりたい」とこぼし、宮島の明神さんに頼んだ。
すると明神さんは、兵衛丸をセミに、巴御前をカマキリに変えてやった。それからというもの、今宮島に行けば、セミが鳴く木の下には必ずカマキリが居るという。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 広島の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 広島の伝説(日本の伝説21),若杉慧,角川書店,1977年8年10日,原題「セミとカマキリの夫婦」 |
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