昔、安芸と備後の境に峠があって、そこに一軒の茶店がありました。
茶店の老夫婦はとても仲が良く、夫婦になって50年二人きりで茶店を切り盛りしておりました。婆様は「私がもし、先に逝ってしまったら、焼かずに棺にいれて押入れにでもしまっておいてください。爺さんとずっと一緒に居たいけぇ」と爺様に頼みました。
婆様はそれから一年後にちょっとした流行風邪をこじらせて、3日後に亡くなってしまいました。爺様は、約束通り婆様を棺にいれて押入れにしまいました。
その晩から、押入れの中から「爺さん、おるかい?」と婆様の声がするようになりました。怖くなった爺様は茶店から逃げ出しましたが、婆様の声はどこまでも追いかけてきます。とうとう爺様は、恐怖で息絶えてしまいました。
そうして気づくと、婆様と一緒に三途の川にいました。爺様は「わしはまだ生きたかったんじゃがなぁ」と思いながらも嬉しそうな婆様をみて、仕方ないかと諦めて閻魔様に会いに行きました。閻魔様は爺様を見ると「お前はまだ10年生きることになっている」と、前歯3本を抜いて娑婆(しゃば)に戻してくれました。
その後、約束の10年がたち、爺様は今度はちゃんと寿命をまっとうして死にました。閻魔様は爺様の事を覚えていて、爺様に極楽行きを告げました。爺様が極楽へ向かう道の途中で、一軒の茶店に立ち寄ると、そこには懐かしい婆様がいました。
二人は笑って抱きあい「また一緒になれたなぁ」そういって再会を喜んだのでした。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-6-25 16:48)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 広島の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 広島の伝説(日本の伝説21),若杉慧,角川書店,1977年8年10日,原題「爺さん、おるかい」 |
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